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2006年5月 Archive
グリーンジャイアント
- 2006年5月31日 21:19
■1996年6月23日
無事パーヤンも復帰した我が科学部、
今日も相変わらず僕や先輩達を無視した
紐緒さんが部室の隅で黙々と自主研究を続けていた。
ただ一つ変わった事と言えば、
最近紐緒さんが僕に気を許してくれたのか企んでの事か知らないが、
課題に悩む僕に的確な助言をくれる様になり非常に助かっている。
お陰で自分の課題に手詰まりを起こす事はほぼ無くなり、
前より部活動の循環は良くなっているという按配である。
と、ようやく慣れてきた学園生活にも
充実感を感じる余裕が出来てきた訳だが、
流石にこう毎日、研究で夕方帰りを繰り返した上に毎日の授業をこなし、
おまけに近くある体育祭の予行練習(準備)等、
異常とも思えるハードスケジュールは体力的に無理がある。
だが、部活動や学園生活が軌道に乗ってきた今、
みすみすその流れを止めるのは得策でないと感じた俺は
成績に余裕のある授業のボイコットしその空いた時間や
休み時間を利用してグラウンド隅で仮眠を取る事にした。
みすぼらしい手段ではあるが、
このまま身体を壊すよりはマシだろう。


女の子の声
「あっ、危ないで…」
俺
「…ん?何だ?」

「ボゴッ!」
俺 「っぎゃ!!」
女の子声が耳に届いた直後、俺の顔面に強い衝撃が加わると一瞬で 目の前が真っ暗になり俺は一時の間気を失ってしまった。
そして数分後、俺は顔に残る痛みを散らす様に頭を振り
先ほど衝撃のあった鼻骨周辺をさすりながら
ゆっくりと起き上がり、眼を見開いた。
すると目の前には髪を三つ編みにした、
テニスラケットを手に持った女の子が立っていた

女の子
「だいじょうぶですかぁ?」
俺
「…ん…き、きみは誰だい?」

女の子
「ごめんなさい、
テニスをしておりましたところ
サーブミスで貴方の方にボールが飛んでしまいまして…」
俺
「あー、いいよいいよ。
っていうか、本来テニス部のコート裏で
寝てた俺も悪いんだし。」

女の子
「そうですか。それはよろしゅうございました。
それでは…」
俺
「っとと、待った待ったっ
せめて名前ぐらい聞かせてくれよ!」

女の子
「これはこれは…失礼いたしました。
私、古式ゆかり、と申します。
そちら様のお名前もお伺いしてもよろしいでしょうか?」
俺
「俺は田中浩二、よろしくね
(うーん、この娘の名前どこかで聞いたような…)」
女の子
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。
それでは、私、練習がありますので失礼いたします。」
俺
「うん、それじゃまたね」
うーん、どこかで聞いた事があるんだよな…
古式、古式…
というか、うちの学校には何であんな
パンキッシュなヘアスタイルをした女子生徒が多いんだろうか。
これでは不自然な俺の白髪もまるで目立たない。
まあ、それはそれで好都合な訳だが。
と、俺が先程ボールをぶつけられた顔を
さすりながら記憶を手繰っていると校庭にチャイムが鳴り響いた。
いけねっ!?
今日は科学部の合同研究発表の日じゃないか!
早く部室に行かなきゃっ
俺は思わず飛び上がると
科学部へとすっ飛んでいった。
そして科学部
俺
「遅れてすいません!
発表の方を…
と、俺が言いかけたその時、部室の教団にはすでに紐緒さんが立ち、
パーヤンとワクワク先輩を両サイドに配置させ研究発表を行っていた。
紐緒
「遅かったわね浩二君、
早くこっちに来なさい」
ワクワク先輩
「あっ、田中くん、こんにちわぁ」
パーヤン
「こっちょお!」
と、いつもながらキビキビとした
紐緒さんに頼りない先輩二人に誘われ
俺は黒板の前に立った。
紐緒
「それじゃあ早速あれを用意して!」
「パンッ!パンッ!」
紐緒さんが手を二つ叩くとワクワク先輩とパーヤンの二人は
部室の奥にある部屋に行き何かを取りにいった。
俺
「紐緒さん、一体何をするんだい?」
紐緒
「生育研究の一環ね。まあ、大した物ではないわ。
軽いお遊びだからアンタは黙って見てなさい」
俺
「解ったよ」
いつもながら冷淡…もとい、淡白な口調に俺が従っていると
ワクワク先輩が奥から巨大なキャスター付きの水槽を引きずってやって来た
ワクワク先輩
「持ってきたよぉ、紐緒さ〜ん」
パーヤン
「キャーっ!大きいわねぇ!」
俺
「こっこれは!!」

ウーパールーパーだっ!
しかし、これはデカい…間違いなく2mはあるぞ…
しかも何故か水槽の中には水が入っていない!
こ、これは一体…
俺
「ひ、紐緒さん…確かウーパールーパーは水中生物じゃ」
紐緒
「元々サンショウウオの一派なんだから、
呼吸器官だけ成育後に肺呼吸する様にイジったのよ。
それと昼間の生活に適する様、
栄養素を大気中から光合成出来る様にね。」
ワクワク先輩
「可愛いねぇ」
パーヤン
「本当ねーっ!」
ワクワク、パーヤンの両先輩は食い入る様に
水槽の中をノロりノロりと動き続ける
ウーパールーパーを眺めている。

俺
「…」
紐緒
「えー、皆さん。この様にアルビノ個体生物であるアホロートル、
俗称ウーパールーパーはその体質故
体内にて色素合成が不可能な不完全生態でありました。
その為、紫外線防止の為のメラニンを体内に含有しないので
日中の飼育には大変デリケートになる必要がありましたが、
この度、私の研究により一定環境下でこの生物を飼育する事で大幅に巨大化し、
更に、本来彼等にとっては有害となる筈の太陽光から必要なエネルギーのみを摂取させ、
紫外線他、害となる成分は排泄物として体外排出する事で
永続的に自給と育成が可能な生物に進化させる事が出来ました。
現在、このウーパールーパーの体長は2m32cm。
依然進化しておりこの成長を止める場合は
日の光が比較的弱い夜間飼育に切り替え、
大気中で光からのエネルギー摂取を抑制させる必要があります」
と、紐緒さんは淡々とこの巨大な生き物に関する
研究成果を発表していた。
うーん、それにしても光を天敵とする生
物の特徴を逆手に取り光合成で進化する
生き物に変えてしまうなんて…
流石、紐緒さんだ。もう自分で言ってて訳が解らない。
と、我が班(正確には紐緒さん)の研究発表も終わり、
その後も他班による研究発表は滞りなく終了した。
そして研究発表が過ぎて早2週間、
その週末に紐緒さんから思いがけない誘いがあった

紐緒
「あ、浩二君」
俺
「ん?どうしたの紐緒さん、何か用?」

紐緒
「今度の日曜空いてるわよね」
俺
「というか命令でしょ。逆らえないよ」

紐緒
「当然ね」
俺
「で、何」

紐緒
「それなら話は早いわ、
植物園に行くわよ。」
俺
「植物園?あー、そういえば
学校の近くに新しく出来たって聞いた事ある、解ったよ。」

紐緒
「忘れるんじゃないわよ。
それじゃ明日また会いましょう」
んー、植物園か。
植物と先日の研究成果は何か深く関係がありそうだな、
ま、明日行って直接伺ってみるとするか。
そして日曜、
それじゃ早速植物園に行くとしよう。

植物園に着くと珍しく紐緒さんが自分より先に来ていた、
俺は少々途惑いながらも彼女に挨拶をした。
俺
「や、やあ、ごめんね。
待ったかい?」

紐緒
「別に待ってないわよ、約束時刻通りだから。」
俺
「良かった。それじゃあ早速…」

紐緒
「中に入るわよ浩二君」
俺
「はい」
相変わらず紐緒さんにリードされっぱなしで中に入ると
そこには園内一杯の色鮮やかな植物が咲乱れていた。

俺
「わー、これは凄いね」
俺がその様子に心打たれてると、
紐緒さんは目の前に咲く奇怪な模様の花を
しげしげと見つめながらブツブツと独り言を言い始めた。

紐緒
「うーん、いいわね。
これは使えるわ。うちのもこの位育てておきたいわね」
俺
「紐緒さん?」
紐緒
「何よ」
俺
「いや、食虫植物見ながら
何ブツブツ言ってんのかなと思って…」

紐緒
「秘密よ」
俺
「そ、そう。それとこの前の研究成果凄かったね。
今回この植物園に来た事と何か関係があるのかい?」

紐緒
「秘密よ」
俺
「そう…」
紐緒
「えぇ…」
俺
「紐緒さん」
紐緒
「機密よ。」
俺
「機密かあ…」
僕等の植物園見学の時間は
それなりに楽しく過ぎていった。

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サイエンスリング
- 2006年5月24日 18:50
■1996年5月5日(日)
そういえば最近研究で忙しくて
愛犬のスナフキンに構ってやれなかったな。
家帰ってきても殆ど寝てばっかりだったし。
よし、登校前にちょっとイジってってやるか。
俺は紐緒さんの危険な自主研究相手やらハードな部活動、
そして2年生になり益々きつくなった授業の疲れを癒すべく
愛犬スナフキンの下へと近づいた。
俺
「スナフっ!」

ハッハッハッハッ…
俺
「お手!」

「オェ゛クゥ゛ウォブロ〜…」
(吐瀉)
俺「っぎゃー!!」
「ぶるるるるるっ!」」(首振り)」
俺
「飛び散る!っから…、お前!」
時既に遅し。
スナフキンは差し出した俺の右手になみなみと廃棄物を吐くと、
首を思いっきり横に振り俺の体に疎状にゲロを飛び散らせた。
俺
「お袋ー!スナフが吐いたよー!」
母
「あー、さっき御飯食べたばっかりだからね。
吐いた後、拭いときなさいよ。」
俺
「っえー!?」

「ハッハッハッハッ…」
留学、部活動、独り暮らしと、
長い間実家を離れていた俺に対する部外者意識ともとれるスナフキンの反逆により
俺の登校は30分あまり遅れ遅刻ギリギリの中、
過酷な研究の間に身につけた気力と根性により無事定時に学校へと辿り着けた。

やれやれトンでもない目にあった…
飼い主の恩を忘れやがって。
そして、その後はいつも通り授業を平淡にやり過ごし授業を終えると
憩いの場である科学部へと歩を早めた。
そういえば、
5月頃にパーヤンが復学するって言ってたな。
紐緒さんは「生まれ変わる」って言ってたが、
果たしてどういう意味なのだろうか。
どの道、体調が整えば挨拶の為部活には顔位出すだろう、
そうすれば解る事だ。
今は研究と真の目的を紐緒さんに伝える為、
自分の事を率先して考えなければ。
そして科学部。
部活内はいつもの様な慌しい様子とは打って変わり、
各々自席の場に直立不動で部長の立つ黒板の方に視線を向けている。
と、俺はいつもと違う部室内の様子に途惑いながらも
自分の持ち場に入りワクワク先輩に状況を問いただした。
俺
「富永先輩、どうしたんですか一体?
なんかいつもと様子が違うみたいですけど。」
ワクワク先輩
「あっ、田中く〜ん。
あのねぇ、予定より少し早んだけど
小宮君が今日から復学するらしいんだよねぇ」
俺
「えっそうなんですか!?」
俺は期待と不安が入り混じる複雑な心境で、
隣に立つ紐緒さんを覗き込んだ。
その表情は不適な程り自信に満ち溢れており、一片の曇りもない。
この彼女の自信は一体何を示しているかだろうか、それはもうすぐ解る。
そして次の瞬間、部室内の空気を取り仕切るかの如く
部長の第一声が部屋に鳴り響いた。
部長
「皆聞いてほしい。先日から体調不良を訴え
一時休学していた小宮君だが、
この度、無事復学する事になった。
彼女の休学期間において、各々部員の学年も上がり
また、小宮君の事をよく知らない新入生も
居ると思うのできちんと紹介しておこう。」
そして部長が手招きをすると奥から小宮先輩が現れた。
部長
「小宮君入りたまえ」

パーヤン
「皆さん、こんにちわー!」
あれっ?おかしいぞ?
ハイトーンボイスに太い身体。
見上げる様な巨漢ぶりは健在で、
これといった大きな変貌は見当たらない。
うーん、これはどういう事なのか。
俺は紐緒さんに耳打ちをして事情を問いただしてみた。
俺
「紐緒さん、話が違うじゃないか。
小宮先輩に大きな変化は見られないよ」
と、俺の言葉を耳にした紐緒さんは
思いっきり呆れた様子で僕に解説を始めた。
紐緒
「全く、貴方という人は。
人体において重要な箇所を見落とすなんて。
正にこれを 近・視・眼 的というのかしらね。」
俺「近視?」
俺はその言葉を耳にすると、
小宮先輩の眼の辺りを確認した。

俺
「あれっ眼鏡が無い?
小宮先輩コンタクトじゃなかったですよね?」
紐緒
「そう、生まれ変わったのよ。
彼女は新しい世界を見る力を手に入れたの。」
元々、小宮先輩は視力が弱く、
漫画に出てくる牛乳瓶の蓋底をそのまレンズにした様な
眼鏡をかけていたのだ。
この班に入って2ヶ月程した頃
パーヤン先輩本人から聞いた話なのだが、
彼女は幼少の頃、ある事故で眼に障害をきたしてしまったらしく、
それ以後、年々視力の低下に悩まされていたそうだ。
そうか、こういう事だったのか。
俺は紐緒さんに明るい笑顔を返した。
紐緒
「不慮の事故とはいえ他人に迷惑をかけたせめてもの償いね。
まあ、小宮に飲ませた血清に混入してた抗生物質が
彼女の眼球を圧迫する外的要因を取り除く事が出来るのに
気づいたのは事故の後の事だけど。」
俺
「でも、良かったね。
小宮先輩、昔から眼科に通い続けてても
治らないって言ってたのに」
紐緒さんと言葉を交わしていると、
教壇で挨拶を終えたパーヤン先輩が
こちらの方にやってきた
パーヤン先輩
「ありがとう、紐緒さん。」
紐緒
「たまたまよ、
そういう状況にあったから処置をしただけ。
それにしても、99%成功するとはいえ、
1%の確証が持てない治療実験を受けた貴方も大したものね」
パーヤン先輩
「本当にありがとう…」
パーヤン先輩はいつものハイトーンボイスではない
落ち着いた声で薄っすらと眼に涙を浮かべ、
紐緒さんに深々とお辞儀をすると、
自分の持ち場に戻り、遅れた研究活動を取り戻すかの如くせっせと動き始めた。
ワクワク先輩は事情を察してか知らずか、
その様子を穏やかな表情で見守っていたのがとても印象的である。
俺
「それにしても、本当に凄いね。
分析と処方だけで他人の身体を治しちゃうなんて」
紐緒
「貴方に住所を教えて貰ったお陰ね。
簡単な検診と本人とその両親の承諾を
受ける事が出来たわ。」
俺
「いやいや」
紐緒
「それと、科学と医学は深く関係してるのよ。
貴方、そんな事も理解しないで研究を続けてる訳?
少しは精進なさい」
俺
「はい…」
と、前半しみじみと調子の狂った本科学部ではあったが、
その後はいつもと変わらずといった様子で、
相変わらず紐緒さんは自主研究、
僕等は課題をこなす為、お互い黙々と活動を開始した。
ただ、この一件が影響したのか前より紐緒さんの取る行動に
「怖い」「怪しい」といった印象が薄れてきている事に俺は気づいた。
テーマはどうであれ彼女は常に信頼出来る志を持って研究を続けている。
今はそれが理解出来る気がするのだ。
と、視力の回復したパーヤン先輩も戻り
いつも通りの我が班の部活動は再開された訳だが
相変わらずのハードスケジュール。
体力・精神力共に浪費が激しい生活の中、
俺は自分なりの青春を謳歌させるべく
必死に学校生活に食らい続けていた。


紐緒
「あ、浩二くん」
俺
「あ、あれ?どうしたの紐緒さん?
今日は随分と早い上がりなんだね。」

紐緒
「一緒に帰るわよ」
俺 「っえー!?」
紐緒
「何よ、バカみたいに大声出して。
そんなに私と帰るのが嫌なの?」
俺
「いや、そうじゃないけど、珍しいというか、天変地異というか…」

紐緒
「嫌じゃないならさっさと行くわよ」
俺
「あ、待って、紐緒さん」
俺はキビキビと動く彼女のペースに翻弄されながらも、
ご機嫌な様子で彼女の後をついていった。
紐緒
「ところで貴方、明日は暇?」
俺
「そうだね、暇かな。
これといった活動はないかな。
今週の休日は部活もお休みだし。」
紐緒
「そう、それじゃあ私に付き合いなさい」
俺
「また唐突だね。別にいいけど何をするのさ」
紐緒
「映画に行くのよ。
研究資料になりそうな作品が上映されてるの」
俺
「どんなの?」
紐緒
「ホラーよ」
俺
「ホラーか…」
紐緒
「ホラー」
俺
「2回言わなくてもいいよ」
紐緒
「で、どうする訳?」
俺
「解った、行くよ。」
紐緒
「当然ね」
そして約束の日曜日。
俺は映画館に行き紐緒さんが資料用にと見たがっていた
フランケンシュタインの現代リメイク版「フンガー」を観賞した。


俺「(うーん、流石、原作がしっかりしてるだけあって中々面白いな)」
誘われた映画の面白さに感心しつつ
スクリーンライトに照らされる紐緒さんの横顔を覗くと
激しく邪心に満ち溢れた顔をしていた。
やっぱこの人は信頼出来ない。

俺
「お、面白かったね」
紐緒
「もう一度観るわよ」
俺
「えっ!?」
紐緒
「ワンカットどうしても気になるシーンがあるの。
観るわよ浩二君」
そして俺は頑固な映画監督の様になった紐緒さんに付き合い
その後、6時間に亘り閉館の時間まで同じ映画を延々と観続けた。
また、その週だけでは納得いかなかったらしく、
翌週の日曜も紐緒さんは同じ映画に俺を誘い
その日も閉館まで延々とツギハギの化け物を観続けるハメになってしまった。
やっぱりこの人は信頼出来ない…

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アニマルハウス
- 2006年5月12日 18:00
■1996年4月14日
先日動物園に行った時に紐緒さんが言っていた
動物実験の話の続きが気になるものの
彼女は相変わらず得体の知れない回虫やら昆虫、
はたまたは液体の成分分析に没頭しており
ロクに聞き出す事が出来ない。
というか加害が怖くて近寄れない。
と、言ってもこのままでは、らちがあかない。
早く自分の野望、そして目的を彼女に伝え
お互いを理解しあう為にも一歩前進しなければ。
だが、そうは言っても先日動物園に付き添いで行ってみたが
以後彼女と目立った同行はしておらずその日を境に距離が近づいたどころか、
むしろ秘密研究について俺が尻尾を掴んだ事が災いして
最近は紐緒さんが実験中に俺の試験管にポリデントを入れたり、
フラスコにバブとアタックを混入させてあり得ない化学反応を誘発させてくるという
非常に緻密な嫌がらせをしてくる。
これが彼女からのアプローチであればいいのだが、
目を合わせようとすらしないので、まずそれは無いだろう。
うーん、とはいっても動物と深く関りのある研究の実態、
そこは非常に気になる。
この秘密について詳しく聞き出す為には
前に彼女がこの事について喋った現場と同じ環境を作る事だな。
その為にまず先日行った動物園に紐緒さんともう一度行き
核をつかない様、慎重に情報を聞き出していこう。
危険だがこれしかない。
よし善は急げだ、こうなったら電話で先日行った動物園に直接誘い出そう。
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「ガチャッ」
紐緒
「はい、紐緒です」
俺
「あっ紐緒さん、俺だよ浩二・田中だよ」
紐緒
「何よ、普通に名乗りなさい。」
俺
「悪い悪い、この前苗字から名乗ったら
特定出来ないって言われたからさ」
紐緒
「まあ、いいわ。で、浩二君。
今日は何の用かしら?」

俺
「うん、単刀直入に4月14日の日曜に
動物園に一緒に行かないかい?」

紐緒
「あら残念、その日は丁度空いてるわね。
まあ、いいわよ」
俺
「えー!?」
紐緒
「何を驚いてるの?貴方から切り出したんでしょうに」
俺
「いやあ、そうだけど。
紐緒さん最近やたらと部活中に
俺の実験中に科学反応誘発させるから
俺は嫌われてるのかなと」
紐緒
「あれは自分の手元に空いた容器が無いから貴方の物を使っただけよ。
誰も貴方の事なんか意識してないから安心しなさい」
俺
「あ、そうだったんだ。良かったよ」
紐緒
「第一、手隙になってる容器があるなら
中に付着した薬剤をよく洗っておきなさい。
実験中は様々な溶液が空気中にすら飛び交うのよ、
中には数的程度で軽い爆発を引き起こす物だってあるんだから。」
俺
「うん、ごめんよ。心配してくれてありがとう」
紐緒
「あたしに迷惑かけないで頂戴」
俺
「…」
紐緒
「それじゃあ、用件はそれだけかしら?
あたし今忙しいんで切るわね」
「ガチャッ」

俺
「あ、もう切れてるな」
「ガチャッ…」
うーん、何だかアッサリといってしまったぞ。
それにしても先日から感じていた彼女から溢れ出る俺に対する不信感は
俺の取り越し苦労だったのか、これで一先ずは安心だな。
さて、動物園見学…いや紐緒さんの秘密研究を探る日まで一週間。
ここ数ヶ月部活に出ずっぱりだったり試験勉強もあったりで
休む余裕が全く無かったから、この一週間は体力温存も兼ねて
授業が終ったら直行で帰宅してしっかり休養を取ろう。

さて、いよいよか、動物園で紐緒さんを待とう。
彼女とのコンタクトはまず来る迄が体力勝負だからな、
今回は休養もたっぷり取ったし大丈夫だろう。
さて、動物園に着いたのだが、
待ち合わせ場所は…と…
あ、あれ?紐緒さんが居る!?
俺
「あ、あれ紐緒さんどうしたの?」
紐緒
「何って待ち合わせの時間でしょ、
あなた時計も読めないの?」

俺
「い、いやあ。前少したけ遅れたからさ…
今日は必要以上に早くてどうしたのかなって。」
紐緒
「あの時は私の腕時計や、
自宅の時計全てが3時間遅れてたのよ」
俺「え、え〜…?」
紐緒
「多分、研究に大型電磁波調整器具を使用していた為ね。
私の家の時計は全てデジタル仕様だから手元にある全時計が
その電磁波の影響を受けて表示が3時間遅れたんでしょう。」
俺
「お、大型の研究機材って…
(彼女の家の経済事情はどうなっているんだろう)」

紐緒
「さあ、御託並べてないで
さっさと中に入るわよ浩二君」
俺
「あっ、待ってよ紐緒さん」
と、さっさと中に入っていく
紐緒さんを追う様に俺も動物園に入った。
入園した紐緒さんの眼は爛々と輝き
何よりその息遣いに研究への意欲や好奇心が活き活きと現れていた。
そして僕等は今日も様々な動物を見て周った
【パンダ】

俺
「なんか具合悪そうだね」
紐緒
「眼が死んでるわ」
俺
「開いてないしね」
紐緒
「次いくわよ」
【ヒグマ】

「フ〜フ〜…」
俺
「やさぐれてるね」
紐緒
「死に掛けね。こんな老衰に用は無いわ。次いくわよ」
【キリン】

・・・・・
俺
「そういやキリンが鳴くとこって見た事ないね」
紐緒
「動かないわね」

フンッ…!
俺
「あ、汚ねー!鼻水飛ばした」

・・・・・・
俺
「ば、馬鹿にされてる気がするよ紐緒さん」
紐緒
「あんただけでしょ」
俺
「次行こうよもう…」
【カンガルー】

俺
「寝てるね」
紐緒
「これは和むわね」
俺
「あ、ちょっと足が動いたよ」
紐緒
「なんか一匹あんたの事凄い睨んでるわよ」
俺
「うん、手前の一匹寝そべりながらすっごい見てるね。」

紐緒
「…」
俺
「よく見ると逞しいんだねカンガルーって…」

紐緒
「そうね、成人の雄の脚力は人間の数十倍とも言われているから、
何しろ二足歩行の可能な数少ない動物よ、
あの跳躍力と足腰はこの筋骨からくるべきものと
判断するべきでしょう。」
俺
「な、なんか凄い顔してこっちくるね」

紐緒
「逃げるわよ」
俺
「待ってよ!」
【トラ】

俺
「いちゃついてるね」
紐緒
「虎のつがい飼育は危険な筈だから、
離してやった方がいいんじゃないかしら」
俺
「あ、交尾始めたよ」
紐緒
「いっ、いくわよ浩二君!」
【 ? ? ? 】

俺
「何だよこれ、見た事ねーよ…」
紐緒
「こっこれは素晴らしいわ!」
俺
「でも、紐緒さんなんか訳わかんないよこれ」

紐緒
「新たな種の発見、そして保存、研究と交配。
そして理想の生産…あー素晴らしいわ、
動物園に来ると遺伝子操作実験を行いたくなるわね」
きた、ここで聞き出すんだ浩二!
俺
「あの紐緒さん!その遺伝子操作て一体、
君は生体を使って何を研究しているんだい?」
と、率直に今自分が伝えたい事を伝えたのだが、
次の瞬間彼女の背中にあるものが襲いかかってきた

紐緒
「きゃーっ!」
俺は一瞬彼女の肩に爪をかけるその動物を見る眼を疑った、
コ、コアラだ! 先日彼女とここで眼にした
ジャイアントコアラの子供が彼女を襲っている!

コアラ
「…」
恐ろしい形相で彼女睨むその顔つきは正に肉食のアクマそのもの、
おかしいぞ、コアラは確か草食だった筈…
ましてやナマケモノの亜種ともされているこいつ等に
こんな行動力がある筈が…
と、俺は頭の中を高速で駆け巡る疑問が過ぎ去った後、
事態の緊急さに気づき係員を呼びに行こうとしたが、
次の瞬間そのコアラは彼女の元から去っていった。
紐緒
「はぁ…はぁ…」
俺
「紐緒さん大丈夫かい?」
俺は、珍しく取り乱す彼女の気を落ち着かせようと語りかけたが、
すぐに紐緒さんはいつもの冷静な態度を取り戻し、
重い口を開いた

紐緒
「見た、浩二君。これが奴等の正体よ」
俺
「え?」
それが、先程の俺の問いかけに対する答えなのか、
理解出来なかったが続けて彼女はこう言った
紐緒
「私は、皆の誤解を解く為に研究しているのよ」
それがどういう意味なのか
まだ僕には解らなかったが、
彼女の眼には力強い志が宿ってたのは確かだった。
そうだ、俺にはまだ2年間ある、
少しずつ聞き出していけばいい。
青春は短い様で長いのだから。

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時給0円
- 2006年5月 7日 17:14
■1996年 3月24日
5時限目の授業を終えた俺は帰宅準備をする奴等を尻目に、
MY巾着袋に実権に使う試験管とMYビーカーが入っているのを確認すると
急ぎ足で紐緒さんとワクワク先輩の待つ実験室へと向った。
そういえばパーヤン先輩はその後2月まで通学したものの、
やはりあの蛙が原因なのか(もしくは解毒用に紐緒さんに飲まされた液体)
1月の中盤から学校に来なくなり、2月の中頃から
体調が悪化し今は自宅療養を取っているそうだ。
うーん、流石に心配だから
紐緒さんにも連絡取る様に言っておくかな。
こんな言い方はしたくないが諸悪の根源は彼女な訳だし。
そうだ、物思いに耽ってる場合ではない。
早く実験室へと向わなければ。
と、急いで廊下に飛び出た俺に語りかける女の声が聞こえた
???
「浩二君」

俺
「ん、誰お前?」
俺は、心の中で思いっきりはてなマークを飛び出してみたものの、
彼女はやたらと親しげな様子で語りかけてくる。
この口調に流石にアンタ誰?はまずいだろうと感じ、
入学式の時に好雄の奴から譲ってもらった
目ぼしい女の子データが記載されまくった
手帳の写し書きの中から彼女の情報を探し出した。
あったあった…
えーと…俺の方も一応下の名前使って読んだ方がいいな。
名前は…
俺「 なんだい、うたおりさん? 」
詩織
「???」
やっヤベー
なんか俺すっごい間違えてる?
無難に上の名前で言っとくか
俺「あ、悪い ふ、じさきさん。
先輩に君に凄く声の似てる
うたおりさんって人が居てね。
振り向く前に返事しちゃって」
藤崎
「ふーん、そうなんだ。
あ、えっとね今度の日曜日空いてるかな?」

今度の日曜は特に部活の予定も無いし、
まあテストも終ったばかりだから暇といえば暇かな
俺
「あ、うん。忙しくはないよ、
どっちかって言ったら暇な方かな。」
藤崎
「ふふ、なーにそれぇー(笑)」
くーっなんだこの女はっ!
ムズ痒いっ!こんなの放ってさっさと実験室に向わなければ
俺
「あの、ふじさきさんゴメンちょっと俺部活に行…」

藤崎
「あ、それでね、もし良かったら
買い物に行くんだけど付き合ってほしいのね」

俺
「はぁ?」
藤崎
「ほら、もう春でしょ。
冬服との入れ替えもしたんだけど、
新しい服が欲しくなっちゃって」
俺
「いや、あのね…」

藤崎
「本当、それじゃあ…えーと。
今週の日曜にショッピング街で待ち合わ…」
俺「じゃいいよそれで!」
藤崎
「ありがとう、それじゃ楽しみにしてるね」
俺はとりあえずその女を振り切り遅刻気味になってる
実験室へと足を向けた。
全くうちのクラスにはイヤミな金髪といい
さっきのバンダナといいどうしてこうも
エゴイストが多いんだろうか。
そして科学部にやっとう着し今日の実験開始。
早速紐緒さんに当の課題である
パーヤン先輩の安否を気遣う様に釘をさしておいた。
俺
「紐緒さん、小宮先輩の事なんだけど、
もう休学して2ヶ月経つし連絡取ってみたらどうだい?」
と、彼女はその問いかけに以外な応答を返した
紐緒
「ふふっ…まー黙って見てなさい。
彼女は生まれ変わるのよ。後、2月後にはね」
俺
「うっ、生まれ変わる?」
紐緒
「そう、これは彼女自身が望んだ事でもあるの。
若干の休学も辞さないとの判断も彼女の意思よ。
学校側もそれを理解してるわ」
俺
「そ、そうだったんだ」
紐緒
「だから外野は黙って見てなさい。
目にもの見せてくれるわよ」
俺
「た、楽しみにしてるよ」
と、相も変わらず課題を無視し、
今日は虫籠一杯に肥大化したムカデ(蛙は持ち込みを禁じられた為)に、
餌をやっては5分に一度紫色の液体をそのムカデの腹に注入する
という独特な生物実験を行っていた。
そうしてパーヤンの居ない研究生活+学校の授業、
という平々凡々とした学園生活は過ぎていき
約束していた問題の日曜を迎えた。
うーん…平日の研究・授業で疲労も溜まってるし
出来れば休日は寝て過ごすか、NHKの科学番組でも
見ていたいんだけど。
まあ、仕方ないな、買い物に付き合うと
約束した手前一応待ち合わせ場所に行くとしよう。
同じクラスの女だし約束すっぽかして
何かと悪い噂を立てられても困る。
と、俺はクラスメートのふじさきの待つ
ショッピング街入り口へと向った。

と、そこには既にふじさきが待っていた。
俺
「悪い悪い、待った?」

藤崎
「ううん、今丁度きたところ」
俺
「そう、良かった」

藤崎
「それじゃあどこに行きましょうか?」
うーん洋服が欲しいと言ってたけどなあ…
この手の女は選ぶのに試着やら何やらで延々と時間がかかりそうだし、
とりあえず小物屋か何か入って適当な物勧めて帰るとするか
俺
「そうだね、それじゃあ
あそこの小物屋さんに入ろう」

詩織
「それじゃ行きましょう」
そして俺等は小物ショップに入り物色を開始した
入って10分程すると、俺が割りと興味のあるアンティーク工具やら、
また研究材料に使えそうなパーツっぽいものもあり
それなりに楽しんで商品を見ている自分に気づいた。
うーん、古物ってのも中々味があっていいなあ。
と、俺が骨董品に目覚めつつあるとふじさきが声をかけてきた。
藤崎
「ねぇ、浩二君、これなんてどうかな?」


っえぇ〜?
わっかんねーよ、っていうかこえーよ。
何だこれ?
うーん、俺の見方が悪いのかもしんないな。
もっかい目を凝らしてよく見てみるか。

余計こえーよ。大体何なんだよこれ、
何に使うかサッパリ予想つかねーよ。
藤崎
「どうかな?」
う〜ん…でもなあ。
ここで何か色々言って逆恨みされるのも嫌だし、
無難に答えとくか。
俺
「…う、うん。いいんじゃない、
君によく似合うと思うよ。」
藤崎
「えっ本当?凄い嬉しい」



………
こうして俺の強制ショッピング初体験は無事に事なきを得た。
その後、彼女の洋服の買い物に3時間延々と付き合わされた挙句、
家が隣だというだけで荷物持ちまでさせられた事以外は。
つーかよくよく考えたら、元来の目的はそれか。
なんだったんだあいつは。
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羅生門
- 2006年5月 6日 16:32
■1996年 2月25日
今朝もいつもの様に愛犬のスナフキンに骨っ子を齧らせてから
自分の朝食を済ませるとお気に入りの巾着袋に
「MY フラスコ」「MYビーカー」を入れたのを確認し俺は通学へと赴いた。
うーん、この瓶底に付着した溶液の臭いがたまらないぜ。
と、校門の前に到着すると
俺の視界に異様な光景が広がった。
何百人という我が校の女生徒達がトラックに向かって、
各々持参したカラフルな包装の小箱を次々と投げ入れているのだ。

女生徒達 「ッギャー! いずぅいんくーん!! 私の魂よー!」
何やら罵声にマジって凄まじい闘気が飛び交っている。
新手の新興宗教か何かだろうか。
と、その光景に圧倒されていると
クラスメートの伊集院が俺に話しかけてきた

伊集院
「やあ、田中君。おはよう。
今日はバレンタインだね、君にはかなわないが
僕も少々チョコレートを頂いたよ」
俺
「ああ、あの奇怪な集団はお前のファンか」
伊集院
「奇怪とは失礼な、良識のある女生徒の集団と言いたまえ。

俺
「まあ、どうでもいいや。
またな色男」

伊集院
「あっ!君、待ちたまえ!まだ僕の自慢話が…」
と、俺はとりあえずそのエゴイストを振り切り、
教室に着くなり自分の席に座りボーっと窓の外に見える
先程の伊集院大好き集団に目をくれつつ物思いに耽っていた。

俺
「(そうかー…
そういや今日はバレンタインとかいう日だったんだな。
まあ、俺には関係ないけど。
実験ばかりしててロクに遊んでなかったし)」
と、この高校生活1年目を振り返り
感傷に浸っていると、俺の背後から
聴きなれたハスキーボイスが轟いた。
紐緒
「田中君。おはよう」
俺
「ひっ 紐緒さん!」
俺は思いがけないその訪問者に驚き思わず大声を上げた。
紐緒
「何驚いてるの、昨日実験室で会ったばかりじゃない」
俺
「そっ そりゃそうだけどさ。
紐緒さんは別のクラスだし、
どうしたのさ急にこんなとこまで?

紐緒
「雑談しにきたんじゃないのよ、
はいこれ、チョコレートよ。受け取りなさい」


俺「えー!?」
俺は先程にもまして大声を上げてしまった、
普段の紐緒さんといえば全くもって自分に無関心。
ましてや身近に居ると常に悪意すら感じる彼女から
唐突なプレゼントである。
まあ、包装はこういう事に手馴れてない
彼女らしく無印の茶封筒というメルヘンやロマンスを感じるには
いささか無理もあるがここは善しとしよう。
嬉しさと入り混じった複雑なこの心境は
驚愕としか言い表せない。

紐緒
「これを食べて出た症状をこのレポートに記載して提出しなさい」
と、喜びも束の間、
今度は怪し気な注意事項の記載されたレポート用紙が俺に手渡された。
俺
「えーと、何々…
1日辺りの摂取水分量…
「震え、呼吸困難の場合の処方箋一覧」
「出来物が首筋に吹いた際には紐緒に一報を入れる事…
睡眠時間量に比例する起床時間の平均、
って色々書いてあるけどなんだいこれは?」
紐緒
「症状報告用のカルテよ」

う〜ん…
俺
「紐緒さん念の為に聞くけど、
さっきチョコって渡されたこの
食料の中には何が入ってるの?

紐緒
「安心しなさい。毒物は混入してないわ。
日本で近年に輸入が禁止された
合法ドラッグを煎じた粉末が30グラム程よ」
ひと時でも彼女を信頼した俺が浅はかだった。
俺
「じゃあ紐緒さんがまず立証実験をという事で」
俺は試しにそのチョコの入っている茶封筒を彼女に渡した

紐緒
「いやっ ほらぁ わ・わたしは…
こういう臨床実験というのは、
まず自己安全を図る為、犠牲を伴って行うもので…」
俺
「犠牲?」
と、その言葉に敏感に反応した俺に彼女はこう言った
紐緒
「成長したわね、田中君…」
俺
「何がさ」
そしてまたいつもの様に時が過ぎていった

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サイエンス王国
- 2006年5月 3日 16:09
■1996年 2月11日
科学部に入ってから早3ヶ月、
日々紐緒さんと同じ班で研究をしているが
相変わらず彼女は自主研究に没頭しており
僕等の部活動には目もくれない。
先日は虫籠一杯に見た事無い形の幼虫を敷き詰めて持ってきて、
30分に一回位、緑色の液体をスポイトで差し込んでいたが
あれは一体何だったんだろうか。
つーかパーヤン先輩の一件から部活を締め出された挙句、
生物の類の持込を一切禁止されたのはどうなったのだろうか。
そういえば紐緒んさんは
今自宅で小動物を使った生態実験をしてるけど
薬物反応が曖昧で難を示してるとか言ってたっけ。
確か、近所に動物園が建設されたって
街角情報誌に書いてあったな。
動物観察がてら紐緒さんを誘ってみるか、
見慣れない動物の溜り場だし
彼女の生態研究に役立つ事も少しはあるだろう。
と、俺は早速彼女を動物園に誘う為
電話連絡をしてみる事にした
俺
「あ、紐緒さ…」
得体の知れない鳴き声
「プギャルフ゛ゥアッーァ゛ァ゛ー!!」
俺
「ッギャーーーー!」
紐緒
「こら、ミチオ!静かにしなさい!」
ミチオ
「ホウッーゥ゙ゥ゙ゥ゙ー…ヒョビャー…」
俺
「っあ、ひっ紐緒さん…今の鳴き声は一体?」
紐緒
「あたしが実験用に可愛がってる
ルームメイトで巨大マングースのミチオよ。
今日の夜までの命だけどね」
ミチオ
「シャゥゥゥヴー!!」
俺
「そ、そう…元気いいね。
ところでマングースって実験用の
飼育許可ってあるんだっけ」
紐緒
「安心しなさい、元はただのモルモットだから。
ちょっとした化学反応によってこの程度の種別変換は可能なのよ」
俺
「…わー、凄いね」
紐緒
「崇めなさい」
俺
「うん、ところでさ、近所に動物園が出来たらしいんだけど、
良かったら紐緒さん一緒に行かない?」
紐緒
「動物園?何故にそんな場所へ行く必要があるの?」
俺
「いやー、
あそこなら研究の参考になる動物も沢山居るんじゃないかと思ってさ」
紐緒
「成る程、たまには、
野外調査もいいかもしれないわね。
いいわ、付き合って上げる」
よしっやったぞ!
研究の口実を元に紐緒さんと
初めて二人きりになるチャンスだっ
そして俺は足早に動物園に向かい
入り口で紐緒さんを待った。

待つ事3時間、
ようやく紐緒さんが現れた

紐緒
「時間通りね、さっさと中に入るわよ」

俺
「そうだね、中に入ろう
そして俺と紐緒さんは動物園に入ると、
早速当動物園の目玉でもあり紐緒さんも気になっていたという
巨大コアラを見物しに行った。

俺
「でけ〜…」
紐緒
「………壮観ね」
僕等はまずそのコアラの巨体に圧倒された、
何といっても体長3m、平均60〜80cmというコアラとしては
マンモスクラスのでかさだ。
物珍しさを越して感心していると
紐緒さんが話しかけてきた。

紐緒
「どう思う浩二君?」
俺
「何が?」
紐緒
「このコアラよ」
俺
「え?」

俺
「うーん…とりあえずデカいよね。
後、眼つきが怖いかな。
皆可愛いとか言って愛されてるけど
背中向けたら襲われそうな気がするよ」
紐緒
「それよ!!」
待ってましたと言わんばかりに紐緒さんは
大きな声を上げて僕を指差した。
そして僕に向けたその指をグルりと後方の檻の方へと向けると
今度はその中に居る動物を指差し僕にこう尋ねてきた
紐緒
「浩二君、あれは何?」
俺
「へ?熊だけど。それが?」
紐緒
「そうね。奴を見て何を感じるかしら?」

俺
「近づく距離と共に死が近くなっていくなと」
紐緒
「それじゃあ今度はこっちを眺めて頂戴っ」
と、紐緒さんが言うと、何を考えてるのか、
今度は僕等が元々目にしていたコアラの方を指し示した

俺
「デカ過ぎて遠近感が狂うよ」
紐緒
「違うのよ、見るのはあの柱に食い込む強靭かつ鋭利な爪よ」

俺
「っ!!」
紐緒
「そうっそして今度は熊を見なさい
その四股に装備されてる爪よっ」

俺
「こっこれわ!!」
紐 緒
「そう、、所詮コアラは獣。
周りの思い込みが決め付けてる勝手な判断で安全な草食動物扱いされているけど、
キッカケが無いだけでそれを与えてやればあっさり獰猛な獣になるに違いないわ!」
俺
「で、でも…コアラが人を襲うなんてあまり聞かないよね」
紐緒
「いい事!よく聞きなさい!
《MOTHER》Mを取れば《OTHER》他人よ。
すなわち熊と脳さえ入れ替えてしまえばコアラも同等…
いえ、熊の数段上の戦闘力を身につけた肉食獣へと変貌するわ。」
俺
「!」
紐緒
「そしてキッカケを与えた奴等に
人間同様の学習・言語能力を身に付けさせ…
っと、喋りすぎたわね」
俺
「え、どうしたの?」
紐緒
「何でもないわ」
俺
「でも気になるよ」
紐緒
「黙りなさい]
俺
「はい」
そうして、
紐緒さんとの動物観察を終え1日が終了した。
タメになる力説も色々聞けて参考になったなぁ。
にしても途中で途切れたあの話が気になる。
隙をついて徐々に聞き出していってみよう。

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モアハッピー
- 2006年5月 2日 15:54
■1996年 1月11日

今日は元旦。俺が6歳になってから毎年元旦3ヶ日は
強制的に留守番にされ両親が代わりに親戚周りをしてくるという事になっている、
他兄弟も同様である。
そして、両親は毎年その親戚周りからの帰宅の際、何故か
「お年玉は浩二の将来設計の為に貯金して上げてるからね」
と、言いながら、子供にお年玉を渡さず
空の袋の束だけを渡すという不可解な行動をしておるのだが、
俺は「ゆうちょ」にも「銀行」にも自分の口座を開設していない。
更に母は親戚周りから帰った週末、
決まってデパートへと俺を誘い「5千円〜1万円」
という非常に微妙な予算範囲内で俺達兄弟に
「好きな物を買いなさい」と日頃の過剰節約家(ケチ)を
感じさせない太っ腹さを見せるのだ。
まあ、要するにピンハネで息子の年一回のボーナスを掠め取るという暴挙に出ている訳で、
そんな事ばかり思いつめて一人家に閉じこもっていても仕方が無い訳だ。
3日間の大切なプライベート元日、
留守番代(兼お年玉)として支給された5000円を利用して何をするかが問題だ。
そうだな、冬休みに部活から出た課題「モルモットの観察レポート」について
解らない所があるし、紐緒さんに電話して聞くかな。

俺
「あ、紐緒さん?」
紐緒
「どなたかしら?」
俺
「俺だよ、田中だよ」
紐緒
「貴方私をナメてるの。
そんな模範的な名の人間思い当たるだけで5人居るわ。
特定出来る方法で名乗り出なさい」
なるほど、そういえばこの人はいつも他人の名を呼ばず
「貴方」「君」「そこの!」等と指を指して命令する人だったな。
つまりは俺の事をそういう事をしている姿容姿としてしか捉えてないと。
ようし、それならば
俺
「俺だよ、この前実験中に重要薬剤の入った試験管を割って
紐緒さんに手元にあったフラスコでボコボコにされた田中だよ」
紐緒
「ああ、浩二君ね」
おお、良かった!
思い出してもらえたぞ、
それじゃ早速
俺
「紐緒さん、実は俺
今から初詣に行こうと思うんだけど」

紐緒
「いいんじゃない、行ってらっしゃい」
「ブツッ… ツーツーツー…」
あー、そうだ。彼女に用件を繰り出す時にはまず
結論から言わないと話を切り上げられるんだった…
うーん、参ったな…
仕方ないから一人でオミクジだけでも引きにいくか。

末吉かあ…
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