Home > 羅生門

羅生門

  • Posted by: 連射太郎
  • 2006年5月 6日 16:32

■1996年 2月25日

今朝もいつもの様に愛犬のスナフキンに骨っ子を齧らせてから
自分の朝食を済ませるとお気に入りの巾着袋に
「MY フラスコ」「MYビーカー」を入れたのを確認し俺は通学へと赴いた。

うーん、この瓶底に付着した溶液の臭いがたまらないぜ。
 
 
と、校門の前に到着すると
俺の視界に異様な光景が広がった。
 
何百人という我が校の女生徒達がトラックに向かって、
各々持参したカラフルな包装の小箱を次々と投げ入れているのだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
96_2-14_muragaru.jpg

女生徒達 「ッギャー! いずぅいんくーん!! 私の魂よー!」


何やら罵声にマジって凄まじい闘気が飛び交っている。
新手の新興宗教か何かだろうか。
と、その光景に圧倒されていると
クラスメートの伊集院が俺に話しかけてきた
 
 
 
96_2-14_kanawanai.jpg

伊集院
「やあ、田中君。おはよう。
今日はバレンタインだね、君にはかなわないが
僕も少々チョコレートを頂いたよ」
 
 

「ああ、あの奇怪な集団はお前のファンか」
 
 
伊集院
「奇怪とは失礼な、良識のある女生徒の集団と言いたまえ。
 
 
 
 
 
 
 
 
96_2-14_muragaru.jpg
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「まあ、どうでもいいや。
またな色男」
 
 
 
96_2-14_kabanaiteta.jpg

伊集院
「あっ!君、待ちたまえ!まだ僕の自慢話が…」


 
 
 
 
 
 
 
と、俺はとりあえずそのエゴイストを振り切り、
教室に着くなり自分の席に座りボーっと窓の外に見える
先程の伊集院大好き集団に目をくれつつ物思いに耽っていた。
 
 
 
 
 
 
96_2-14_muragaru.jpg
 
 
 
 
 
 
 
 
俺 
「(そうかー…
そういや今日はバレンタインとかいう日だったんだな。
まあ、俺には関係ないけど。
実験ばかりしててロクに遊んでなかったし)」
  
  
  
と、この高校生活1年目を振り返り
感傷に浸っていると、俺の背後から
聴きなれたハスキーボイスが轟いた。
 
 
 
 
 
紐緒
「田中君。おはよう」
 
 

「ひっ 紐緒さん!」
 
 
 
 
 
俺は思いがけないその訪問者に驚き思わず大声を上げた。
 
 
 
 
 
紐緒
「何驚いてるの、昨日実験室で会ったばかりじゃない」
 
 

「そっ そりゃそうだけどさ。
紐緒さんは別のクラスだし、
どうしたのさ急にこんなとこまで?
 
 
 
 
 
96_2-14_koujikunchoko.jpg
 
 
紐緒
「雑談しにきたんじゃないのよ、
はいこれ、チョコレートよ。受け取りなさい」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
chokohuutou.jpg
 
 
 
 
 
 
 
 
 
prete.jpg
 

俺「えー!?」


 
 
 
 
 
 
 
俺は先程にもまして大声を上げてしまった、

普段の紐緒さんといえば全くもって自分に無関心。
ましてや身近に居ると常に悪意すら感じる彼女から
唐突なプレゼントである。

まあ、包装はこういう事に手馴れてない
彼女らしく無印の茶封筒というメルヘンやロマンスを感じるには
いささか無理もあるがここは善しとしよう。
 
 
 
嬉しさと入り混じった複雑なこの心境は
驚愕としか言い表せない。
 
 
 
 
 
96_2-14_tabeterepo.jpg

紐緒
「これを食べて出た症状をこのレポートに記載して提出しなさい」
 
 
 
 
と、喜びも束の間、
今度は怪し気な注意事項の記載されたレポート用紙が俺に手渡された。
 
 
 
 

「えーと、何々…
1日辺りの摂取水分量…
「震え、呼吸困難の場合の処方箋一覧」
「出来物が首筋に吹いた際には紐緒に一報を入れる事…
睡眠時間量に比例する起床時間の平均、
って色々書いてあるけどなんだいこれは?」
 
 
紐緒
「症状報告用のカルテよ」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
sita.jpg

う〜ん…
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「紐緒さん念の為に聞くけど、
さっきチョコって渡されたこの
食料の中には何が入ってるの?
 
 
chokohuutou.jpg
 
 
紐緒
「安心しなさい。毒物は混入してないわ。
日本で近年に輸入が禁止された
合法ドラッグを煎じた粉末が30グラム程よ」
 
 
 
 

 
 
 
ひと時でも彼女を信頼した俺が浅はかだった。
 
 
 
 
 
 
 
 

「じゃあ紐緒さんがまず立証実験をという事で」
 
 
 
 
 
 
俺は試しにそのチョコの入っている茶封筒を彼女に渡した
 
 
 
 
 
chokohuutou.jpg
 
 
 
 
 
紐緒
「いやっ ほらぁ わ・わたしは…
こういう臨床実験というのは、
まず自己安全を図る為、犠牲を伴って行うもので…」
 
 
 
 
 
 

「犠牲?」
 
 
 
 
と、その言葉に敏感に反応した俺に彼女はこう言った
 
 
 
 
 
 
 
紐緒
「成長したわね、田中君…」
 
 

「何がさ」
 
 
 
 
 
 
そしてまたいつもの様に時が過ぎていった

96_2-25_asitakara.jpg

Comments:0

Comment Form

Home > 羅生門

Search
Feeds

Return to page top