- 2006年11月30日 15:11
■1996年10月13日(金)
【科学部】
あの、あらゆる意味で思いで深い修学旅行から帰宅して早一ヶ月。
当然あの世紀の一戦の一部始終は僕と紐緒さんの二人の機密と言う事にして
いつもと変わらないサイエンスライフを過ごしている。
ただ、あの修学旅行の一件以来、
常日頃自主研究に没頭しきっていた紐緒さんが
最近は共同実験に顔を出す事も多くなり確実に変化を見せている。
まあ、それも単に紐緒さんの研究に必要なスペースが
大きくなったからやむなくという訳なのだが。
最近紐緒さんは何か砲台の様な鉄の塊の製鉄作業を行っており
「腕」や「足」を模ったパーツを別室の倉庫に持ち込んでは
巨大な何かをまるでプラモデルの様に組み立てているそうだ。
何を組み立てているのかは、
別の部員の噂話を小耳に挟んだだけなのでで詳しくは知らないが、
とてつもなく大きい物という事だけは確かな様だ。
何しろその物体のせいで倉庫近隣の3年C組近辺に日陰が出来、
授業の弊害になるからと教頭が紐緒さんに厳重注意をした程の物と聞く。
うーん、流石紐緒さんだ、あらゆる意味でスケールが大きい。
と、相変わらずの彼女のゴーイングマイウェイぶりに感心していたものの、
実はこのままでは非常に困るのだ。というのも今週末は文化祭、
我が科学部は一斑一演習として共同演習を行う決まりとなっており、
また、俺達の班の中でもとびきりの技術力を誇る
紐緒さんの力は何としてもその演習に必要な訳である。
という訳で俺は日頃お世話になってる
ワクワク、パーヤンの両先輩の顔を立てる為にも
意を決して背を向けて製鉄作業に励む紐緒さんに
文化祭の手伝いをお願いする事にした。
俺
「ひ、紐緒さん」
紐緒
「………」
「シュゴオオォォォォォォォッ!」
(バーナーの音)
俺
「紐緒さんっ!」
紐緒
「何よ?」
(振り向き様にバーナーを向けて)
俺
「わっ!紐緒さん火止めて、火っ!」
紐緒
「止めたわよ。何よ?」
俺
「あ、あの…忙しい中悪いんだけど、
実はお願い事があって…」
紐緒
「いいわよ」
俺は彼女の思いがけない返答に面を食らい思わず声を上げた
俺
「えっ!?だって俺まだ何も言ってないよ?」
紐緒
「私は貴方の依頼を承知したと言ってるの。
それとも貴方如きの願いを叶えられない程
私の能力が不足だとも言うのかしら?」
俺
「あ、ありがとう、それでお願いなんだけど、
今週末文化祭があるじゃない、
それで設計やアイディアは僕と先輩二人でやってあるから
機械の組み立てとセッティングとかの仕上げをお願いしたいんだ」
紐緒
「文化祭?あ、そういえばそんな下らないものもあったわね。
全く研究の邪魔になるイベントがあったものだわ」
俺
「で、どうかな紐緒さん。やってくれるかい?」
紐緒
「貴方何か勘違いしてない?
私は先に「いいわよ」と答えてるの」
俺
「ありがとう。それにしても何故二つ返事を?」
紐緒
「貴方にはこの間の修学旅行で手伝ってもらったからね。
あの一戦で貴重なレポートが取れたわ、
その御礼というか貸しを返す為よ。」
俺
「助かるよ、それじゃ設計図と
アイディアのレポートを渡しておくよ」
紐緒
「何々…レーザーアートショー…
……あら、貴方にしては中々面白いじゃないの」
俺
「そ、そう?いや、滅多に評価してもらえないから
そう言われると嬉しいよ。」
紐緒
「成る程ね…使い方を変えれば
ああいう風にも出来るわね」
俺
「……」
一抹の不安は過ぎるものの紐緒さんは快く承諾してくれた、
これで文化祭の事はとりあえず何とかなりそうだ。
そしてあっという間に文化祭の前日
1996年 10月11日(金)
【校門】
ふぅ…今日も授業と部活の板挟みで凄い疲れた。
明日は文化祭もあるし、さっさと帰宅して休むとしよう。
紐緒
「あっ浩二君」
あら?紐緒さんだ?
そういえば頼んでおいた物は出来てるかな、聞いてみるか。
田中
「あ、紐緒さん、
明日文化祭だけど頼んでおいた物は出来てる?」
紐緒
「そう、それを伝えにきたのよ、
昨晩から時間を削って製作しておいて上げたわよ」
紐緒さんはそういうと両手に抱えた大きなボストンバッグから
ガシャガシャと俺が頼んでおいた物を取り出してきた
俺
「でかー………」
紐緒
「ふっふっふっ…どう?
出力スイッチ【弱】で厚さ50cmの
鉄板を貫通させる威力を持つ超高能力レーザー砲よ!」
俺
「うわぁ…」
まずかった、彼女一人に製作を任した事自体がまずかった…
俺
「ひ、紐緒さん出来れば兵器じゃなくて
その、装飾効果的なレーザーをお願いしたかったんだけど」
紐緒
「何よ!それなら始めからそう伝えなさい!
全く紛らわしい」
俺
「ごめんよ
(この前レポート渡したじゃないか…)」
紐緒
「ふう、仕方ないわね。
明日までに何とか仕上げるわ」
俺
「頼むよ」
そして遂に文化祭の日がやってきた
1996年 10月12日(土)
昨日、帰宅前に紐緒さんに
その旨伝える事が出来たので、
平気だとは思うが…とりあえず早く出展場に向おう。
【出展場】
俺
「あ、紐緒さん、おはよう。
どう、頼んでおいといた物は作ってくれた?」
紐緒
「だから前提が間違ってるでしょ貴方は、
私が規約を破る事はありえないのよ」
俺
「ご、ごめんよ」
紐緒
「はい、出来たわよ。」
俺
「あ、本当だ、サイズ的にも丁度良いね、
出力の方は調整してくれた?」
紐緒
「ぬかりはないわ、安心なさい。
素敵な光線を奏でてくれるから。」
俺
「ありがとう、本当に助かったよ。」
そして、間もなく我が班の出展時刻がやってきた。
舞台のセッティングや会場案内のアナウンスは
パーヤンとワクワク先輩に任せて、
機械の操作は紐緒さんにやってもらい
俺は横で彼女のアシスタントをする事にした
俺
「…紐緒さん頼むよ」
紐緒
「任せなさい」
俺
「…………………」
ワクワク先輩
「…………………」
パーヤン先輩
「…………………」
紐緒
「美しいわ」
俺
「…………………」
ワクワク先輩
「…………………」
パーヤン先輩
「…………………」
俺・パーヤン・ワクワク先輩
「...................(;゚Д゚)」
そして文化祭は終りを告げた。