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2007年2月 Archive

裏職人

  • Posted by: 連射太郎
  • 2007年2月25日 23:31

■1996年12月7日

部活に紐緒さんが帰ってきてから早半月。
スランプを乗り越えた彼女は以前にも増して活発に
我が班の隅で黙々と自主研究に打ち込んでいる。

今日は螺旋状を歪ませた様な異様な形状の大型ドライバーで、
細いワイヤーを黙々とアルミ製のケースに繋ぎとめては
「バチバチッ!」とショートで火花を散らせては
その様子を電圧計で計っており相変わらず他の班の研究員から
煙たがられる研究を行いながらも
誰も文句のつけられない独特の空気が漂っていた。
 
 
 
 
 
この様に部活は以前のペースを取り戻したが
未だ解決しない問題が一つある。
そう、片桐の絵画道場だ。
 
 
 
 
俺はあれから土日・他、祝日・病欠を除く全ての日
科学部と掛け持ちして奴の脅迫に従い
毎日放課後に人気の無い校庭裏に行っては、
奴が出す突拍子も無い課題を絵にして
描くという苦行をこなしている。

そして俺は科学部の部活動を一通り終えると
今日も黒幕の待つきらめき校庭裏へと向った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

【きらめき高校 裏校舎】


 
 
 
片桐
「Hello 浩二君。課題の絵は描けたかしら?」
 
 

「ああ、描いてきたよ。家の写生だろ。」
 
 
片桐
「そう。出来れば Solitary house 一軒家よ」
 
 

「何とか描けたよ。状況的にかなり焦ったけど」
 
 
片桐
「What? どういう事?」
 
 

「まあ、とりあえず見てくれ。」
 
 
 
 
 
 
 
俺は持参したスケッチブックをめくると、
片桐に描いてきた絵を見せた
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

※しりあがり寿の漫画をトレースしたんじゃないよ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
片桐
「何なのこれは?」
 
 

「描く題材探して夜中に町を徘徊してたら、
たまたま通りがかった近所の島崎って奴の家を
庭の木に登って覗き込む帽子を被ったオッサン、
そしてそれを吠え続ける柴犬、目の前を通りがかる車だ。」
 
 
片桐
「た…タイトルは?」
 
 

「男と要塞」
 
 
 
 
 

片桐
「グレートよ!」
 
 
 
 
 
 



「ありがとう」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
こうして不毛な活動により、
今日もまた俺の身の安全が一つ保障された。

ハードボイルドな月末

  • Posted by: 連射太郎
  • 2007年2月25日 22:18

■1996年11月30日

ここ最近の通学中、
俺の周りでは同級生や他校の生徒までもが
俺の事を「ポスト古式頭取」だの「きらめき高校のシルバーデビル」だの、
「玉の輿狙いの編入生」だのといった根も葉もない噂が
延々とエスカレートの一途を辿っている。
 
 
まあ、その噂話の原因となってる大半は

のせいだと察しはついているんだが…
 
 
 
しかし今下手にクレームをつけて片桐の逆燐に触れたら
今度はまた古式さんに何を吹き込まれるか解ったもんじゃないので、
俺は先日の一件から科学部と掛け持ちしながら
校舎裏で行われる奴の絵画教室に嫌々通い詰め、
絵心の無い筆を取り奴の提示した課題を絵にして提出している。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
そして、最近解った事なのだが、
どうやら片桐は何をとち狂ったか吹奏楽部を辞め
今度は美術部に入部したらしい。

科学部に入部した事で奴とは縁を断ち切れたと思いきや、
全く溜息しか出てこない…。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
そしてテスト前という事もありただでさえ激務だった11月最週末の29日金曜日。
俺はいつもの様に放課後の部活動を終えワクワク、パーヤン両先輩に挨拶をしてから
片桐の待つ校舎裏に向おうとしたが、連日につぐハードスケジュールで
疲れきっていた俺は身体のガス抜きにと屋上に休憩に向う事にした。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


【屋上】


 
 
 
ふう…身体に溜まった悪い空気が抜けていく様だ…
 
 
 
 
 
 
 
 
俺は屋上の隅に立ち空を眺めると、
ちょっとしたデューク東郷気分で黄昏(たそがれ)つつ、
夕焼けの空に漂う一筋の雲を片桐に見立て撃ってみた
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


「バキューン!」


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
すると、俺の想いが届いたのか
その雲は突風が吹き荒れた突風に散らされる様にして
バラバラに砕け散り夕闇の彼方へと消え去った
 
 
 
俺はその雲の残骸を目にしながら空に向って大声で叫んだ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 



「死ねー!」


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
俺が目の前に落ちた薬莢を拾うパントマイムをしていると、
背後から聞き慣れた声で大声が上がった

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


「何者!?」


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


「そっ その声は! 紐緒さんじゃないかっ」
 
 
 
 
 
俺は思わぬ出会いに胸躍らせた。
実はここ2ヶ月程、紐緒さんは科学部に
全く顔を出さなかったので会う機会が無かったのだ

突然の出会いに鼓舞する胸の高鳴りを抑えつつ、
俺は彼女に向かい声高らかに挨拶をした
 
 
 
 
 
 
 

「どっどうしたんだい紐緒さんこんな所でっ!」
 
 

紐緒
「だまらっしゃい小童がっ!」


 
 
 
 
 
 
 
 
俺はその鳴り響く怒号の声量に久々の彼女を感じ満足であった。
しかし、その直後普段の彼女からは信じ難い様子が見て取れた 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

紐緒
「はぁ…」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
たっ…溜息だ!
完全無欠と思っていた彼女のメンタル面に一体何があったのだろうか…
俺は紐緒さんが心配になり、怒鳴られた余韻に浸る間もなく彼女に声をかけた
 
 
 
 
 
 
 
 


「どうしたの紐緒さん溜息なんかついて?」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
すると続いて彼女の口から
更に信じられない言葉がついて出た
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

紐緒
「全く…私らしくないから、苛ついていたんだけど、
 言ってしまえば私スランプなのよ」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


絵 エ ー っ ! ? 


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
俺は今自分の中で大きく弊害になってる一つの活動が
活字になり心の叫び声に混じる位驚いた。
 
スランプっ 
何より普段傲慢極まりない紐緒さんが負を認める自覚を持ったというだけで
これはもう十分一大スペクタルなサプライズであるっ
 
 
 
 
 
 

「どっどうしたのさ紐緒さんっ
本当にらしくないよっ!いつもの強気はどうしたのさ
 
 
 
 
 
 
 

俺は思わず激励とも動揺ともつかない、
彼女に対する印象というか日頃の感想をぶつけてみた
 
 
 
 
 
 
 

紐緒 「貴方に私の何が解るっていうの?」



俺 「全くだね!」






彼女の言うとおりである。
だが俺はどうしても気がかりで
続けざまに彼女に問いかけた






俺 「でも、本当にどうしたんだい?
 部活も以前以上に全く顔出さないし。
 俺だけじゃなくて小宮先輩や富永先輩も心配してるよ」






俺は両先輩の名を利用して
さり気無く俺が心配しているというニュアンスを含ませてみた。
直接的なアプローチでは想いが伝わらない彼女に対し
正に粉骨砕身の努力である






紐緒
「ありがとう浩二君。でも今は私一人で考えたいの」
 
 
 

「一体何がスランプの症状なの?」
 
 
 
 
 

紐緒
「どうしても良いアイディアが浮かばないのよ」
 
 
 

 

「お、俺で良かったら一緒に考えるよっ」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
俺はここぞとばかりに渾身の力を振絞り
玉砕覚悟で彼女の懐に飛び込んだ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

紐緒
「気持ちは嬉しいわ。
 でも頭を冷やして考えてごらんなさい」
 
 
 
 
 
 
 
玉砕である。

俺は一通り彼女に思いの丈をぶつけると、
気落ちしてる彼女を邪魔すまいと屋上から立ち去る事にした。
 

そしてドアを出て屋上を後にしようとすると、
後ろからブツブツと彼女の独り言が聞こえてきた。
































紐緒 「はぁ…究極破壊兵器の最後の部品は
どうすればいいのかしら…」

















「………」
 
 
 
 
 
 
 
頑張れ紐緒さん。俺は心の中でそう叫び屋上を後にした。
 

その後、俺が予定より大幅に遅れて校舎裏に向うと
待ち呆けていた片桐に頭を一発ひっぱたかれ
課題を出され来月までに描いて持って来る様に命令されて
その日はそのままお互いに帰宅という事になった。
 
連日につぐ部活と脅迫の連続で心身共に疲れ切っていた
俺には自習というのは好都合な選択肢であった。
 
 
 
 
 
 
そして翌日...
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
放課後、いつもの様に科学部に向うと
そこには元気、というか邪心に満ち溢れた以前の紐緒さんの姿があった
 
 
 
 
 

「ど、どうしたの紐緒さん?調子悪いんじゃ…」
 
 
紐緒
「フフフ…良いアイディアが浮かんだのよ浩二君」
 
 
パーヤン先輩
「ッキャー!心配したのょぉ紐緒さん^^」
 
 
ワクワク先輩
「無事で良かったねぇ」
 
 
 
 
 
両先輩の軽い会釈で場も和み我が班はいつもの調子を取り戻した。
いつもと違う事といえばこの後始まる片桐の絵画教室があるという事だけだろうか…
 
 
 
 
 
紐緒さんは今、肩に担ぐ程巨大な電気ドリルを使い
ブ暑い鉄板にガリガリと切れ目を入れ始めている
その自信に満ち溢れた様子は昨日見た気弱く頼りない
あの彼女と同一人物とは思えない。 
 
冬も差し迫る少し早い夕暮れと11月最後の想い出、
女心と秋の空とはよく言ったものである。

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