ゲーム日記:倫敦精霊探偵団 Episode.19
| あの頃は、街が『世界』だった。 19世紀、蒸気機関の発明により、めまぐるしい発展を見せた倫敦。 しかし、蒸気に頼った人々は大事なモノを忘れてしまった。 倫敦の夕日、満天の星空、そして、もうひとつの『世界』。 本来あるべき姿を取り戻すために・・・ ひとりの少年は決意を胸に、渦巻く陰謀に立ち向かう。 |

エヴァレット先生と出会う少し前のことだっただろうか?
裏路地で暮らしていたボクは、全身キカイのような奇妙な男に会ったことがある。
そこ頃のボクは、まだ何も知らないただの孤児だった。

この倫敦を蒸気機械の理想郷に ―
最終話 ~滅び行く世界~

事件は終わっていなかった。
先生を救出して帰路に着いたボクたちに休む暇はなかった。
真冬の倫敦が、熱を帯びている。
万博会場の人工太陽が暴走したのだ。
4年前に倫敦の蒸気化を推し進めた中心人物ダンテ・ガブリエル。
実験を握っていたマシナリータを失った怪人結社 ―
その影で、ガブリエルの恐ろしい野望が着実に進行していたのだ。
ヤツの狙いは・・・

このままでは街が溶けてしまうほどの熱が放たれている。
倫敦全土に避難勧告が発令された。
港では蒸気船に乗り切れない人々であふれかえっていた。
相棒「あにきーダイジケン?」
まったくもって大事件だよ。本当に倫敦が消えてしまう。
ヴァージルさんが危惧していたのはこのことだったんだ。
ボクはアリエスたちと一緒に、ガブリエルの情報を求めて街へ向かった。

住民の避難を呼びかけながら、蒸気管理局へと向かった。
そこでボクたちは、機関長から衝撃的な情報を聞くことになる。
「あいつはこの倫敦を蒸気機械の理想郷にするつもりだったのさ」
倫敦を蒸気機械の理想郷に ―
思い出した。
あのときの奇妙な男、あいつがガブリエルだったんだ。
倫敦を蒸気機械で埋め尽くす・・・
そこには人間は必要ないってことだ。
ガブリエルはたった一人で巨大スチームを開発・設計までした男。
そして自らの肉体を蒸気に改造し、表舞台から姿を消した。

人工太陽の暴走は、間違いなくその恐るべき計画の布石。
倫敦から人間を排除しようとしている。
これを防ぐ術はあるのか?
万博会場に向かおうとしても、人工太陽の暴走はすさまじい。
ハイドパークより先はすでに灼熱地獄。
近寄ることすらできない。
大勢の警察に恐れをなした”相棒”と別れ、事務所に戻ることにした。

打つ手なし ―
お手上げだった。
もはやボクたちも避難しないと体が持たない。
このままでは倫敦が消滅してしまうのも時間の問題だ。
エヴァレット「おや?きみが訪ねてくるなんてめずらしいね」
ヴァージルさんだ。
精霊探偵・・・もしかしたら彼だったら何とかしてくれるかもしれない。
『精霊の世界が消えそうなんだ・・・助けてあげたいんだ』
精霊界に現れた巨大な光が精霊を喰い尽くそうとしている ―
倫敦だけじゃなかった。
人工太陽の暴走は精霊界にも及んでいた。
「キミたちの力が必要みたいだね。ついていってあげなさい」
エヴァレット先生はそれ以上は何も言わなかった。
きっと、先生もヴァージルさんに賭けているんだと思う。
そして、ボクたちを信頼してくれていることに感謝した。
必ず生きて、そしてこの倫敦の街へ帰ってくる ―
ボクとアリエスは決意を胸に、探偵事務所を後にした。

ヴァージルさんの召喚したウィスプは、人工太陽の熱を覆ってくれた。
万博会場はひどいありさまだった。
人工太陽はすぐそこなのに、これ以上は先に進むことは不可能だ。
この場所から、精霊界に移動することになる。
決着をつけるときだ。
精霊界の巨大な光を消し去れば、人工太陽の暴走は収まるはず。
ヴァージルさんの予想を信じて、ボクたちは精霊界に飛び込んだ。

精霊界に足を踏み入れるのは二度目だ。
だけど、今回は様子が違った。
「ここは・・・キミたちの世界になっていたかもしれない場所」
これから見る光景は、人間が間違った道を歩んだ世界。
― もうひとつの倫敦だった。
荒れ果てた土地に草木は茂っていない。
戦争の道具が無残にも広がる荒野。
朽ちた蒸気鉄道。
崩壊した怪人結社ビル。
これが、ボクたちの『世界』の未来なのだろうか?

生命の息吹を感じない精霊界。
そこにうごめくモノは、暴走した精霊だけだ。
ガレキの山を登っていき、万博会場と思われる廃墟を目指した。
ボクもアリエスも体力がほとんど残っていない。
ヴァージルさんがありったけの精霊を召喚して戦ってくれた。
万博会場跡が見えてきた。
近づくにつれて、この世界が強い光に包まれていく。
あと少し ―

息を切らして辿り着いた先は、強い光で視界を奪われてしまうほどだ。
眩しくて目を開けていられない。
「どうやらぼくの知っているモノたちとは違うものが生まれたみたいだ」
そのモノにはまだ意志がない。
しかし存在そのものが何もかも焼き尽くそうとしている。
それは、太陽だった。

ヴァージルさんが召喚した闇の精霊によってそのモノが姿を現した。
まだ間に合う!
ありったけの力をぶつけて、その強大な光に立ち向かった。
ボクは探偵だ。
世界を守るなんて大層なことは考えてない。
倫敦を守りたいだけだ。
ボクにとって倫敦は、― この街は『世界』だから。
不思議な感覚をおぼえた。
闇の中でいつもの倫敦の街並が、まるで映像のように飛び込んでくる。
やがて、その強大な光は闇に溶けていった。

世界はゆっくりとその光景を変えていく。
― これは・・・
今ボクたちが倒したのは、人工太陽から生まれた精霊だ。
精霊界にいたモノたちとはまったく違う、機械の精霊 ―
人が古きものを忘れキカイに頼るようになった結果生まれた精霊 ―
本来生まれるべきではなかった精霊だ。
そう言ったヴァージルさんの目は、哀しみと怒りの両方が感じ取れた。

『やっと見つけた・・・ずっと探していたのです・・・ヴァージル』
いつか見た二人の姿があった。
やっぱり、ヴァージルさんの知り合いだったんだ。
『あなたたちの未来を祝福すべきか呪詛すべきか、私にはわからない』
だから、あなたたちに任せましょう ―
蒸気機関の発展は精霊界までも影響をおよぼした。
彼らは人間によって住む世界を奪われた存在。
そう、精霊だ。
ボクたちは、これから先の世界を、未来を託されたんだ。

霧が晴れてゆく。
その霧に溶け込むように、ヴァージルさんたちは姿を消してしまった。
なんとなく、もうヴァージルさんには会えない、そんな気がした。
どうやら現実の世界に戻ってきたみたいだ。
聞き慣れた声が近づいてくる。
エヴァレット「二人とも無事かい?うまくいったみたいだね」
アリエス「ヴァージルは?どこいっちゃったの?」
エヴァレット「ヴァージル?誰のことだい?」

エヴァレット先生がヴァージルさんのことを忘れた?
そんなわけない。
だってヴァージルさんを紹介してくれたのは先生なんだから。
彼の記憶が消えてしまっている ―
先生は、人工太陽と一体化したガブリエルを見上げている。
自らの体を人工太陽に繋いで、意志を送り込み暴走させた。
おそらくその時点でガブリエルは人間としての機能は失われたはずだ。
彼の中ではおそらく叶えられている。
蒸気機械だけの理想郷が ―
人工太陽を作り出した張本人はいなくなった。
倫敦の巨大スチームだって、もう機能することはないだろう。
これから先の倫敦はどうなるんだろう?
どうすればいいんだろう?
大丈夫。
それは、彼らが教えてくれたじゃないか。

数日後
刺すような冷たい風が吹き荒ぶ倫敦が戻ってきた。
蒸気の暖炉はいまだに復旧していない。
ミス・マーガレットの小言が煩わしい日々が帰ってきた。
一段落したボクたちは、ずっとヴァージルさんのことを考えていた。
ヴァージルさんの家はもぬけの殻だった。
倫敦中で聞き込みしたものの、彼を知っている人は誰一人いなかった。
今回の”人工太陽暴走事件”は先生の活躍で一件落着・・・
そういうことになっていた。
「ねえ。このままヴァージルのことみんな忘れちゃったままでいいのかな」
「そんなのワタシはゼッタイにイヤ!」
そんなの、ボクだっていやだよ。
だけど、ヴァージルさんは本来この『世界』にいるべきヒトじゃない。
あの女性がそう言ってたじゃないか。
だから、寂しいけどこれでいいんだと思う。
ボクとアリエスの体験したことは、誰も信じてくれないだろう。
でも、それは本当にあったこと。
ボクは忘れない。
ヴァージルさんのこと、精霊たちのこと、倫敦を守ってくれたモノたちを。
「だからね、ワタシ・・・」

「エ、エ、エヴァレット先生はいますかな!?」
大慌てで事務所に入ってきたのはいつもの市長さんだ。
市長は泣きっ面で先生に一通の便箋を手渡した。
| 拝啓 貴殿の益々のご活躍、新聞等で拝見しております さて、小生このたび引退した身ではありますが、 ゆえあって倫敦の闇に復帰となりました また貴殿を悩ませることとなりましょう 口開けに、至らぬ弟子の不備にて先日お返しした 王家の髪飾りを再度いただきに参ります まずはご報告までに 敬具 |
こうして、ボクの新たな一日ははじまった。
まだまだこの『世界』はワクワクすることにあふれている。
今日も”相棒”といっしょに、倫敦中を駆けまわるんだ。
― 数年後 ―
少年は、ミス・マーガレットの少年探偵シリーズにより一躍有名となった。
マーガレット氏のファンタジー小説シリーズは十三巻まで刊行された。
しかし、十三巻『先人の残した技術』を最後に未完のまま終わっている。
予定していた最新刊『もうひとつの倫敦』は発売されることはなかった。
なんでも執筆した本人が、覚えのない人物が描かれていて戸惑ったという。
そのモデルとなった少年は、後に倫敦で最も有名な探偵として活躍した。
エヴァレット探偵事務所を譲り受けた彼は、数々の難事件を解決していく。
そんな彼の隣には、いつも日傘をさした淑女の姿が目撃されている。
倫敦では探偵業の大ブームがおこり、”自称探偵”たちで飽和状態となる。
その統率に乗り出したのが、英国が誇る天才私立探偵エヴァレット氏だ。
彼は怪人スペクターの二度目の引退と同じくして、探偵業から一線を退いた。
倫敦中央協会の会長職に赴任し、スコットランドヤードとの連携に尽力した。
ここに、19世紀に刊行された一冊の奇書がある。
『倫敦精霊探偵団』
これは、未完に終わったミス・マーガレットの探偵小説を補完したものだ。
しかし、ファンタジー色の強い描写の本作は当時あまり受け入れられなかった。
ただ、この書籍は19世紀末に英国文学に大きな影響を与えていく。
『不思議の国のアリス』のルイス・キャロル
『指輪物語』のJ・R・R・トールキン
数々のファンタジー小説が生まれていった。
倫敦精霊探偵団は英国ハイ・ファンタジー小説の金字塔と呼ばれるようになる。
『倫敦精霊探偵団』
著者:アリエス・アイヴォリー

Episode.Final ~滅び行く世界~ END
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