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余暇と戦場

  • Posted by: 連射太郎
  • 2006年7月19日 01:50

1996年8月17日

夏休みに入り俺は研究漬けの毎日で疲れた身体を休めようと、
夏合宿までの予定を悠々自適に好きな事をしながら過ごす事にした。
都合の良い事に俺の部屋は居間から離れた2階の奥にある上、
屋内用の扉を二つ介する二世帯住宅構造になってるので
一般の共同住宅よりは比較的に自由に出来るのだ。
 
 
とりあえず何をしようかと名も知らぬ芸人が次々と
聞いた事も無い一般人の物真似を行っている
シュールなお笑い番組を見ながら物思いに耽っていると、
テレビ台の下に埃を被った機材が見えた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

 
 
 
 
 
ん、これは?あーっ懐かしいっ!
俺が音楽活動で盛り上がっていた時、
レコーディング用に購入したシンセサイザーじゃないかっ
 
 
 
 
俺はその機材を手に持ち
懐かしい気分に浸っていると
ある事を思いついた
 
 
 
そうだな、良い機会だし、
久しぶりに曲作りでもしてみるか
 
 
 
俺はそのシンセサイザーの後ろにあった
録音用機材もセッティングし久しぶりに「宅録」に没頭した

作った曲は俺が大好きなファミコンのゲーム
「伝説の騎士エルロンド」のREMIX BGMだ。

ここをクリックすると田中が作った曲をダウンロードする事が出来ます。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ふう…計算、暗記、整理作業と
この所左脳ばかり使う事の多かった頭が、
今回の作曲で少し柔らかくなった様な気がするぞ。
うん、いい息抜きにもなるしこれからも時間ある時はたまに
曲作りや趣味の時間を率先して行っていこう。
部活動から離れて退屈な休暇を持余していたところ
俺は思いがけず自分の時間を見つけ少し嬉しくなった。

その後も暇な時間を見ては作曲や
友人との交遊等に勤しみと久しく忘れていた
遊ぶ楽しさを満喫する事が出来た。
 
 
 
科学部に入ってからというものの
彼女(紐緒)や目の前の研究に夢中で精一杯だったからなあ…
それはそれとして、これからも休日はなるべく自分の時間に割り当てよう。

紐緒さんは自己申請して校舎に自分専用の研究室
を設けさせる領域に踏み込んだらしいが、
やはり、あれはあれだ。
 
 
 
 
 
長期休暇の入り口で一つ悟りの様なものが開けた俺は
その後も珍しくペースが乱れる事なく
夏合宿までの間を悠々自適に過ごした。


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
そしていよいよ問題の夏合宿、
休みの入りがスコブル快調だったせいか心身ともに好調。
久々の部活という事で良い意味での緊張感も手伝って神経も高ぶってきた
 
 
 
 
 
 
「ブルルル…」
 
 
 
 
 
 
 
これが武者震いというやつか…
 
 
 
 
 
 
いや…
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

寒いぞ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
そうだ、今年は確か大気中の成分解析を行う合宿で、
この時期でも比較的空気が乾燥していて解析が行いやすい
合宿地として北海道が選ばれたんだった。

それにしてもこの時期だってのになんって寒さだ…


なんか高気圧の影響で今年北陸は大気が荒れて
夏場なのに真冬並の冷え込みが予想されると天気予報でやっていたが、
チラホラと氷雪の様なものまで降ってやがる。
 
 
 
こりゃ本降りになってきたら敵わんっ
さっさと機材で大気解析だけやって
合宿場の屋内研究に引っ込むとするか。
 
 
 
俺は寒さに身震いしながら手の平を擦り合わせると
寒空の下解析用のルーペと集積袋を手に2〜30分
実態の掴めない大気成分収集に勤しんだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ようし、結構集まったぞ。
 
傍目には狂気の沙汰としか思えない異常行動で収集活動をした甲斐あって、
袋の中身を※超高精度ルーペでちょっと覗いてやると
何か図鑑で見た事ない小虫やら妙な模様が万華鏡の様に絡み合い、
行ったり来たりしてた。

※厳密には超小型の顕微鏡の様な物、
何と、この機材も紐緒さんが発明したらしい。
ちなみにナノレベルまで解析可能だそうだ。
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
おー、これは面白い…と、そんな場合じゃない。
収集も無事済んだんだし、さっさと合宿場内に戻って研究しなければ。
そして俺は唇を紫にし、
凍えそうになりながら合宿場内へと戻っていった
 
 
 
 
 
 
 
そういえば今年の修学旅行も確か北海道だったなぁ…
目的は違えど一年に2度北陸に来ようとは。
次は秋口で更に冷え込むだろうから、もっと厚着してこよう。
 
 
 
 
 
 
 
俺は今年の修学旅行の事を思いつつ
地図を見ながら合宿場の研究施設内へと戻っていった
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
合宿場内、研究施設は思いの他広く、
内部は高度な研究機材が沢山配置されていた。
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
こりゃー凄い…
と、感心していると、
後ろから紐緒さんがやってきた
 
 
 
 
 
 
 

「あ、紐緒さん」
 
 
 
 

紐緒
「あら、貴女まだそんな下らない研究していたの?
いい加減自分のテーマを持って研究しなさいよ」
 
 
 
 


「でも、今年は成分解析がテーマだし…^^;
テーマかあ、何がいいかな」
 
 
 
 
 
俺がちょっと引き気味に答えると彼女から
思わぬ返答があった
 
 
 
 
 
 

紐緒
「何なら私と共同実験でもする?」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
こ っこれわ!

くっ 願っても無い誘いだっ
 
 
共同実験………
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


危険だ


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  
 
 


「ひ、紐緒さん。
是非参加したいんだけど、
残念だが俺の力じゃまだまだ
君の助手すら役不足になりそうで…」
 
 
紐緒
「そう。なら無い頭を駆使して精一杯考えなさい」
 
 
 
 
 


「ありがとう」
 
 
紐緒
「褒めてないわよ」
 
 
 
 
 
 
 
 
うーん、それにしても意外な進展だ。
カマをかけられたのかも知れんが、
まさか彼女の方から直接誘いがあるとは。

何はともあれ少し嬉しいぞ、
これを機に様子を見ながら少しずつ近付こう。
 
 
 
 
 
そして、俺は相変わらず合宿中も紐緒さんと微妙な距離関係を保ちつつ、
ワクワク、パーヤンの両先輩と課題研究に没頭し、
まるで万華鏡かの如く色鮮やかな大気の成分研究に勤しんだ。
 
 
 
そして合宿も最終日
 
 
 
 
 
 
 
 


「ふぅ、いよいよ今日で合宿も最終日か…
色々あったが楽しかったな」
 
 
 
 
 
気だるい疲労感に包み込まれながら
合宿中の研究成果に思いを馳せていると、
部長から号令がかかった。
 
 
 
 
 
部長
「皆ー!そろそろ夕食の時間ですっ
食堂に集合して下さい!」
 
 
 
 
 
あ、もうそんな時間か。

と、気付くと午後7時を回っており
不思議なもので気付くと急に腹が減ってきた
 
 
 
「グーギュルルルルー…」
 
 
 
我ながら凄い腹の虫だ…
 
 
 
 
 

「うーん、とにかくさっさと食堂に行こう」
 
 
 
 
 
が、食堂に向う途中も腹の鳴りは一向に鳴り止まず
先ほどまで空腹で感じていた胃の違和感が
別な危険信号である事に俺は気付いた
 
 
 
 
 
 
 


「んっ!?…ぎゅっ」
 
 
 
 
 
やっ、やばいぞ!
アメリカのボロレストランでイカスミと思って食べてしまった
腐ったカルボナーラの食後以来の危機だっ
 
 
そして周りを見渡すと、
俺同様、科学部員の殆どが床に倒れこんでいた。
何か知らんが恐らく食中りだろう…
いつ食った物が駄目だったんだろう
 

 
 
 
 
 

「と、とりあえずトイレに…」
 
 
 
 
 
俺はトイレに向かい、
手塚治虫に出てくる漫画キャラの様に
不自然な前傾姿勢で必死の小走りをし始めた


「くーっ…競歩の選手って大変なんだなあ…」
 
 
 
 
 
 
括約筋をキツくしめながら
トイレに向かい鬼の形相で手塚走りをしていると
食堂の方角に紐緒さんが見えた
 
 
 
 
 

紐緒
「うーんおかしいわね…」
 
 

「あれ、紐緒さんだ。
どうしたんだろ?」
 
 
 
 
 
首を傾げながら今朝の我々の朝食が入ってる
鍋の中身を神妙な面持ちで覗き込む彼女を、
手塚走りを止めマイケルジャクソンの
ムーンウォーカーの様になりながら眺めていると
次に彼女は衝撃の台詞を口にした
 
 
 
 
 

紐緒 「薬の調合を間違えたのかしら?」

              俺 「そうか、彼女が今朝の食事を作ったのか」    .  .  .  .  .  .  .  .  .  .  


「腹も腰も痛いなぁ…」
 
 
 
 
 
 
 
 
そして予想通り波乱含みの合宿は紐緒さんの最終兵器により
科学部員殲滅という形で幕を閉じた。

来年は参加パスしようかなぁ…
 
 
 
 
 


ぅ゛ぁっ!?

「グリョリョリョ」


 
 

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