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せいやっせいやっ

  • Posted by: 連射太郎
  • 2006年3月 7日 13:27

■1995年 8月20日
 
今月は夏休み。
俺たち学生が開放される数少ない長期休暇の一つだ。

既に残すところ後10日となった高校生初めての
夏休みは「公私」共に非常に疲れる月間となった。
 
 
 
 
 
 
まず公私の「私」の方。
 
8月9日。いつもの様に庭で飼い犬のスナフキンに
骨っ子を齧らせていると普段寡黙な
自宅の電話が鳴り母が出た。
 
母が受話器を手に取り片手に軽く会釈をする
というギャグをかました後、
叫ぶ様な声で俺を呼び出した。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
母「浩二ー!早乙女君ですってよ!」
 
 
 
 
 
田中
「はーい。」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
何の用だろうと電話に出ると、
受話器の向こうの好雄は何か興奮気味な様子で
こう切り出してきた
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

好雄
「浩二、遊園地行こうぜ」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
284.jpg
こいつもかぁ…っ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
まさか穴吹だけでなく好雄までもがホモだったとは…
うーん、どうするか俺よ。
 
 
 
でもまた俺がここで断ったら、
恋愛のお約束パターンである
 
 
 

「逃げる相手程追い詰めたくなる」
 
 
  
という、心理の法則に従う事となり、
ますますコイツを煽ってしまう事になる。
 
それはマズいぞ
一先ずは言いなりになっておこう。
俺は色んな被害妄想が脳裏を駆け巡ると
慌てて好雄にOKの返事をした 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
好雄
「ホントかっ!それじゃあ待ってるからな」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
好雄の奴は鼻息も荒くそう言うと、
一方的に電話を切ってしまった。
 
 
 
 
 
 
参ったなぁ…
とりあえず約束場所に行くとするか。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
俺は今朝飲み忘れた冷蔵庫の中のジョアを一気飲みし
憂鬱な気分を抑える様にしながら
そのまま好雄の待つきらめき遊園地へと足を向けた
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
95_8-9_yattotuita.jpg


「着いちゃったなぁ…とりあえず好雄探さないと」
 
 
 
 
 
  
 
 
 
 
そして俺はカップルだらけの昼下がりの真夏の遊園地で
クラスメートの男友達を探し回った
 
 
 
 
 
 

「熱っちぃなぁ… …何で俺こんな事してんだろ」
 
 
 
 
 
 
 
そして20分程探し周ったところで、
ようやく大広場の裏手で待つ好雄を探し当てた
 
 
 
 
 
95_8-9yattokitana.jpg
 
好雄
「おっそいぞ、浩二。せっかく呼んでやったのに」
 
 
 
 
 
 
 
田中
「いや、だって俺頼んでないじゃん。
なんだって急にこんなとこへ…」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
俺が恐る恐る呼びつけた理由を問うと、
好雄は満面の笑みで答えてきた
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
好雄
「バーカ、俺だってお前と男同士だけで遊園地なんて趣味じゃねーよ」
 
 
 
 
 
 
その返答は以外な一言だった、
そして俺はホッと胸を撫で下ろすと
好雄は息もつかずに俺をここに呼んだ理由を語った
 
 
 
 
 
 
好雄
「実はな浩二、お前の為に女の子二人を誘い出して、
ダブルデートしようと思ってな。
ほら、お前だって貴重な高校一年目の初夏、
寂しく一人ぼっちで過ごしたくないだろぉ」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  
 
 
 
 
ああ、なんと言う事…神様、仏様、好雄様。
俺は好雄を拝む様にして涙ぐんだ笑顔で好雄の肩にポンと手をおくと
誤解に誤解を重ねた自分の不信感を謝罪する様にして礼を言った
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  
 
 
 
 

「ありがとう好雄…俺嬉しいよ」
 
 
 
 
 
好雄
「なーに、いいって事よ。」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
カラっとした笑顔で好雄はそう言った
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「ところで好雄、その女の子達は何処にいるんだよ?」
 
 
 
 
 
好雄
「ああ、彼女達今トイレに行ってるからさ。
もう戻ってくるぞ…あ、ほら戻ってきた
おーい二人ともこっちだ、こっち」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
好雄はが呼ぶその方向に向かい
俺が視線をやるとそこに居たのは
見覚えのある二人の女子だった
 
 
 
 
 
一人は…なんだクラスメートの詩織じゃないか。
詩織は家も隣で幼い頃同じ小学校に通っていたので
馴染みではあるが、特に恋愛対象という訳でもない。
 
まあ、こいつの人脈だとこんなもんか
 
95_8-9siori_konnitiwa.jpg
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
そしてもう一人、こっちも見覚えあるぞ。
うーん、顔は見覚えあるんだけど…なんか服装が違うような…

俺は向こうに見えた顔のパーツをそのままに、
頭の中で着せ替えをしてそいつの名を思い出していると
向こうの方から声をかけてきた
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
95_8-9_katagirikonnitiwa.jpg

片桐
「はーい、コンニチワ。田中君」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
245.gif

うぅわあ〜…
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
何という事だ、同じ吹奏部の片桐じゃないか。
ただでさえ距離をおいて付き合っているというのに
災難とは正にこの事。


俺ががっくりと肩を落としていると
好雄がまたあの満面の笑みで俺の肩に
ポンと手を置き語りかけてきた
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
好雄
「感謝しろよな!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
266.jpg

このヤロウ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
もうどうしようも無くなって笑っていると
好雄がそのまま場を仕切る形で行く場所を指定した
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
好雄
「それじゃ、大観覧車でも行くか」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
どうするか、選択肢は二人に一人だが。
うーん、やっぱりここは詩織を選択しよう。

彼女なら大人しいし
小学校の頃一度同じクラスになった事もあるので
話題に困る事なく適当にやり過ごせるだろう。

少なくともカタコトの英語で情報量が倍になる
あいつよりは比較的マトモな会話がし易い筈だ。
 
 
 
 
 
 
 
よし、詩織と乗ろう!
俺はそう決めて詩織に声をかける事にした
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「あのさ藤崎、俺と…」


俺がそこまで言いかけた時、あいつが始動した
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
95_8-9katagirinorimasyo.jpg

片桐
「Person of me 私は田中君と乗るね!」

 
 
 
 
 
245.gif

わあっ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
もう、どうにでもなれ。
と、俺は断る訳にもいかなく
そのまま片桐に腕を引っ張られる形で観覧車へとむかった
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
片桐
「Let's go early. ほら、早く行くわよ田中君」
 
 
 
 
 

「はい…」
 
 
 
 
  
 
 
 

俺は堪忍して相変わらず不便な話し方をする
片桐に腕を引っ張られる形で大観覧車へと足を進めた
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
kanransyakesiki.jpg

片桐
「そういえば夏休みは何をして過ごしているの?」
 
 
 
 

「昼寝」
 
 
 
 
片桐
「夜は?」
 
 
 
 

「熟睡」
 
 
 
 
片桐
「あっはっはっ、浩二君って本当ユニークな人ね(笑)」
 
 
 
 
 
 
 

「あはは、そう?(名前で呼びやがった)」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
他愛も無い会話でこちらへの興味を打ち消そうと試行錯誤したが
彼女のツボに入ったのか彼女は一人でやたらと盛り上がり
その後、観覧車が周りきるまで延々と自分の事を話し続けていた。


そして観覧車が周りきった後、彼女は満足そうに
 
 
 
 
 
片桐
「もう一周しない?」
 
 
 
 
 
と、切り出してきたので
あの独特の噛み合わなさは
もうゴメンと、俺は
 
 
 
 
 
田中
「あ、向うにホラーハウスがあるよ」
 
 
 
 
 
と、
観覧車の先に見えた
ホラーハウスを指差した

95_8-9_horrorhouse.jpg

片桐
「そうね。それじゃ、行きましょう」
 
 
 
 
 
よし、あそこなら多分アトラクションの仕様上、
暗くてお互いが見えないし余計な事喋る必要なさそうだぞ。
何よりコイツが怖がって中で逃げてくれれば
俺はハグれたっていうのを言い訳に不可抗力で
この強制デートを回避する事が出来る
 
 
 
 
 
そして俺と片桐はアトラクションの中に入っていった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
horrorhouse_kesiki.jpg


ホラーハウスの中は、
風の咽び泣く音がBGM代わりに使われていて
青白い作り物の人魂がグロテスクな妖怪の蝋人形達を
薄っすらと照らすといった中々凝った作りになっていた

また、趣向なのか足元の板の補強が
恐らくワザと弱く作られておるようで
地面を踏む度に「ぎいっ…」「ペキッ」と、
きしむ音を立てている。
 
 
 
 
 
うーん、これは中々…
これなら片桐も怖がって途中で逃げ出す筈だ。
悪く思わないでくれよ、
今日は早く家に帰って忍たま乱太郎を見たいんだ。
 
 
 
と、片桐の方に目をやると
思いもがけない一言が返ってきた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

片桐
「Fantastic!とても美しい情景ね田中君」
 
 
 

「え?」
 
 
 
片桐
「素晴らしいわ、この木の香りと
幻想的に彩られたブルーのスポットライトと
血肉の散乱したDoll達っ 」
 
 
 
 
 
しまったぁ…そういえばこいつは一般人と
趣向が180度違う物に興味を示す変人だった…
 
 
 
 
 
 
俺が失策を自覚した時には既に遅く、
その後、片桐はホラーハウスの隅々まで隈なく鑑賞し
俺にその芸術性を語り続けてくれた。
 
 
 
 
そして、5時間後、遊園地の営業時間が終了する頃、
俺等は警備員の注意でようやく外に出る事が出来た。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
片桐
「まだ物足りないわ、また今度きましょう田中君」
 
 
 
 
 
 
 

「ははは…(一人で来いよ)」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
外に出た頃にはもう好雄と詩織は先に帰ってて居なかったので
僕等はそのまま帰宅した。

これが公私の「私」の方の災難。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
そして公の「公」の方なのだが、
今週、吹奏楽部の夏合宿があったのだが
合宿先の宿がそれはそれは凄いものであった
藁葺き屋根に部員1人につき2畳半の畳部屋ワンルーム。
 
そしてなぜか裏庭で6頭の豚と牛を飼育しており
夜は動物の鳴き声が煩くて眠れない。
 
gassyuku_95.jpg
 
 
 
 
 
と、まあ環境の劣悪さもさる事ながら、
問題は合宿中の練習であった。

合宿の練習は流石にこの環境で行うのは無理なので
近くにある廃校の音楽室を借りてやる事になったのだが…

事もあろうにあの片桐とのペア権を引いてしまった俺は
合宿中、片桐との共同練習で過ごす事になってしまったのだ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

95-8_15_gakuhuyomeru.jpg

片桐
「そういえば浩二君譜面は読めるようになった?」
 
 
 
 
 

「うーん、それ見て吹くの面倒くさいから即興で吹ける様に
タイミングで伴奏暗記出来れば楽かなと思って
吹き続けてるんだけど」
 
 
 
 
 
片桐
「無茶な人ねぇ」
 
 
 
 

「でも片桐さんだってその方が楽だし、
譜面書く時間を実技練習に回せるだろ」
 
 
 
 
片桐
「うーん…そうねぇ、それじゃあパブロフの犬はどうかしら?」
 
 
 
 

「は?」
 
 
 
 
片桐
「ほら、物理で習ったでしょ。
犬を使った条件反射実験。

出したい音を出す直前に体の一部に
刺激を与えて覚えさせていけば
演奏中自分の体叩くだけで伴奏部分の記憶が導かれて
譜面要らずで吹ける様になるって寸法よ
名づけてパブロフの笛。どう?」
 
 
 
 

「成るほど〜。面白いかも。」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
俺は片桐のこの机上のに納得してしまった。
俺はこういう科学を用いられた解説に弱いのだ。

今思えば、未だに少年誌に掲載されている
「残像で手が分裂する必殺技」等の子供だましに乗ってしまう
自分の未熟さをもう少し考慮してからこの屁理屈に乗るんだった。

が、時既に遅し。
 
 
 
 
 
片桐
「それじゃあまず私が手伝って上げるわ。
実験開始よ」
 
 
 
 
 
田中
「いや、でもどうするのさ?
俺が吹いてる時に体を叩いて覚えさせるの?」
 
 
 
 
 
片桐
「ふっふっふっ…違うわよ、
そんな生半可な刺激じゃ体は覚えないわよ。

コレを使うのよっ」
 
 
95-8_15_muchide.jpg
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「うわ〜っ革製じゃないか!?死んじゃうよ!」
 
 
 
 
片桐
「そこまでする訳ないじゃない。

貴方が吹くフレーズの区切りに合わせて
体の特定部分に痛みとその伴奏を記憶させてくのよ」
 
 
 
 

「うーん…」
 
 
 
 
片桐
「これやれば練習量半減するわよ」
 
 
 
 

「頼むよ」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
と、俺は片桐のS気質の部分を知らず
根拠も無いパブロフ式演奏方法を
片桐と練習し始めてしまった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


片 桐
「 ほ ら っ ! 一番は肩っ!」


 
 
 

 「 ピ シ ャ ア っ ! 」

                 

俺  「 ッ ギ ャ ァ ! 」

                   

片 桐 「 2 番 は 膝 よ !」

   


 


 「 ピ シ ィ ッ ! 」


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 



「 フ ギ ャ ッ ! 」


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


片 桐
「3 番 は 背 中 ! 」


 
 
 
 
 
 
 
 
 


 「 ビ シ イ ィ ッ ! 」


 
 
 
 
 

俺 「 ウ ワ ァ ゛ ッ ! ! 」


そして、他部員の怖がる様子を尻目に
僕等二人は廃校の一角にある教室で音楽という名の
暴力を繰り広げ続けた。
 
 
 
 
 
・裂傷8箇所
・打撲3箇所
・痣20箇所以上
 
 
 
 
 
恐らくここまで肉体的ダメージを追った
吹奏楽部員は至上始めてではないかと思う。

こちらが公私の「公」の方の災難。
残り一週間は自宅療養で精一杯過ごそう…。

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