- 2006年2月28日 17:54
■1995年 6月3日(土)
今日は体育祭。この上なく出場したくない、何故なら俺は運動が大の苦手なのだ。
球技やダンス等、感覚で楽しめる運動ならいいのだが、
持久力や過度な瞬発力が問われるガチ系競技がからっきし駄目なのである。
努力すればいいのだろうが、自慢ではないが俺には根気と言われるものが無い。
というよりぶっちゃけ「サボって帰りたい」というのが俺の今の気持ちだ。
でもなあ、入学1年目に流石にそれもマズいだろう、
と、高校生なりに建前も考え、俺は比較的
体力消耗が少なそうな競技に参加する事にした。
そして苦渋の末に俺が出場を希望したのは
「借り物競争」
本来この競技のルールは、
とにかく一定ラインまで全力疾走しその場で紙の入った封を開封、
そして中の紙に書かれているものを持つか
引きずる等してゴールまで走りきるというものだが本校のそれは一味違う。
何と、紙には物ではなく同級生の女の子の名前が書かれていて
その女の子の手を握りゴールまで走りきるという、
異性との出会いと好印象を同時に植えつけるチャンスがある
ハッピーライクなルールになっているのだ。
俺は行き勇んで校庭に並び、
借り物競争が始まるのを体育座りで待った。
そういえば穴吹が藤崎詩織とペアを組んで二人三脚に出場してたけど、
50m位からロデオ状態で藤崎を引きずり猛突進していた。
結果1位だったけど藤崎の奴半泣きだったなぁ、可愛そうに。
そして遂に俺の出番がやってきた。
俺はまだ見ぬ未来の彼女に出会う為
借り物地点まで全力ダッシュした。
そして俺は他の3人を抜き去り
封が置いてある地点に着くと
1番に封を開封しその女子の名を叫んだ
俺「片桐彩子!」
片桐
「I am here! 田中君っ私はここよ!」
「お前かぁ!」
俺は思わず叫び声を上げ落胆を露にすると
そのマイペース女の腕を握り締め助走をつけた
っがっ! 遅いっ!!
なんという遅さだっ
俺は片桐を引きずる様に走っていると序盤抜き去った奴等に
あっという間にゴボウ抜きされいつの間にやらドンケツになってしまった。
そして周りにランナーが誰も居なくなった頃
俺と片桐の二人は何故か盛大な拍手と共に
「頑張れ!」 「負けるな!」 「もう少しだ!」
等と、罵倒にも近い屈辱的なエールを送られ
ゴールを目指した。
片桐
「I am very shameful! 田中君、私恥ずかしい…」
田中
「 こ っ ち の セ リ フ だ こ の 野 郎 」
俺は鬼の形相で片桐を怒鳴りつけると
ようやく目の前に見えたゴールを走り抜けた。
ゴールした途端、
拍手とエールに混じって端々から嘲笑が聞こえた。
田中
「(こんな事なら出るんじゃなかった…)」
片桐
「You did your best 貴方はよく頑張ったわよ。」
田中
「くぅ…」
俺は何時の間にか情けなくて泣いていた。
来年から二度と体育祭には出ない。
- Newer: 3人寄れば馬鹿がみる
- Older: 一抹の不安