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パレストのダイサク

category : レトロゲームアイランド 本章 2014年8月26日 

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僕はそういって前を歩く細田くんの制服の袖口を軽く引っ張って目の前の建物を指し示してみせた

 

 

「あれ?ここビデオショップって看板でてるけど?後、なんかシャッター閉ってるし、今日営業してないんじゃ・・・?」

 

 

そういって訝しげな目で店の周りを眺めている細田くんを背に、ケイは店の裏側に小走り気味に近寄っていき続けてダイゴも彼の後を追っていった

 

 

「ホソダくんこっちこっち!」

 

 

ケイは口に右手を添えて大きめの声で細田くんを手招きした

 

 

「あれ、でもお店の入り口ってここでしょ?」

 

 

「うん、ちょっとね、いいからケイの後ついていってみて」

 

 

 

僕はそういって細田くんの肩をポンと軽く叩き、ケイの方へ一緒に向かっていった。

ビルの間に挟まれ日中なのに日差しの殆ど届かない店の裏手に回ると、そこに「関係者専用」と書かれた鉄製の扉があり、ケイはそこで立ち止まり僕らの方を振り向いて一言言い放った
「はいここ!」

 

 

「あれ、でもこれってお店の人用の入り口でしょ?

 

 

ホソダくんが扉を指差してそう言うとダイゴが続けて説明した

 

「あ、ここケイの親戚が店やってる店で、こいつが居るとフリーパスで入れるんだよ」

 

僕がダイゴの大雑把な説明に失笑してると、ケイは扉のインターホンの下にある電卓の様な並びのボタンを押していく

 

「えーと・・7・・8・4・・・9・・・・3・・5・・2、と」

 

「何してんの?」

 

「あ、これね、スタッフ専用のドアの暗証番号、これ入力するとオジさんの居るスタッフルームの内線に繋がるんだよ」

 

「へー、凄いなー!」

 

 

 

ホソダくんが目を輝かせながらそういうと、すかさずダイゴがチャチャを入れた

 

 

「お前身内なんだから鍵とか借りて中入ればいいじゃん、一々こういうのすんの面倒くさくね?」

 

「うるさいなー!鍵とか無くしたら面倒だし来てもオジさん居なきゃ店入っても仕方ないだろ、
この方が都合いいんだよ!」

 

 

ケイがダイゴと軽くやりあっているとインターホンから野太く渋みのきいた独特の声が響いた

 

「はーい、もしもし、どなたー?」

 

 

「あ、オジさんオレだよケイだけど」

 

 

「あー、ケイちゃん、よく来てくれたねー、今扉開けるからね」

 

 

「ありがとう、それと今日友達が3人来てるんだけど大丈夫?」

 

 

「ケイちゃんのお友達なら構わないよー、新しい基盤も入ってるから入って皆で遊んで上げて」

 

 

すると目の前のドアからロック解除の音がして、先ずケイが扉を開けて中に入り、続いて僕、ダイゴ、ホソダくんの順に並んで扉に入っていった

 

 

 

 

 

扉の先には昭和モダンな白熱電球が照らす薄暗い室内があり、目の前には成人男性一人がギリギリ通れる程度の幅の狭い階段道が上へと続いていた、

 

 

 

「上にオジさん居るからついてきて」

 

 

 

僕ら3人はケイの後に並び階段を登り、上のスタッフルームの扉の前に着くと、ケイが一言挨拶をしてドアを開けた

 

 

「お邪魔しマース!」

 

 

「あ、ケイちゃんいらっちゃーい、お友達もこんにちわ」

 

 

 

 

5畳半程のスタッフルームでルームチェアに腰掛け、パイプをぷかぷかとフカし、丸々とした体型によく見合った丸渕眼鏡に豊かな口髭を蓄え、人柄の良さが滲み出ている表情が特徴の目の前の人物は、ケイの父方の次男坊で名は「美津島大作」という。

数年前まで大手企業の製造技師として働いていたが、自由な時間が欲しいという短絡的な理由により脱サラ。

世間体に厳格な美津島家において、妻子を持たずそうした行動を取る事が原因で両親との仲は良好ではないが、ケイの父(兄)の敬一はそんな彼に対し理解を示し、甥のケイとは家族を通じて仲が良い。

趣味は音楽鑑賞(JAZZ等)やゲーム基盤集めで、製造技師時代に培った技術を元手に他所からの依頼で個人で壊れた基盤修理等も受け付けている。

 

 

 

「マリオのおっさんこんちわ! あの映画探してるんだけど今日って1F見てもいい?」

 

 

ダイゴはオジさんの特徴的な容姿を任天堂のゲーム「スーパーマリオ」の主人公マリオに例え、いつもその名で呼んでいた

 

 

「だからその呼び方止めろってんだろ」

 

 

そういって敬礼のポーズを取っておどけるダイゴの懐に肘を軽く当てて注意するケイ

 

 

 

「ハハハハッ カワシマくん今日も元気がいいねー、1Fのビデオレンタルフロアだね、表からは入れないけど、階段で下に行けば商品は置いてあるから。今ライト点けるから見ておいで」

 

 

 

オジさんがそういって店内のスイッチを押しに立ち上がった所、ユースケの隣に立つ細田くんに気付いた

 

 

 

「おや?ユースケくんの隣のお友達は初めてかな?」

 

 

「あ、おじさん、彼は僕の友達で・・」

 

 

僕がホソダくんの紹介をしようとした所、彼は一歩前に出て自ら挨拶をした

 

 

 

「初めまして、コマツくんのクラスメートでホソダエイジって言います。彼に誘われて今日遊びに来ました

 

 

「礼儀正しい子だねー、初めまして。おじさん今日は新しい筐体のセッティングとかであまり構って上げられないけれど、フリークレジットにしておくから好きなだけ遊んでいってね」

 

 

「おー マジでー!おじさん太っ腹ー!」

 

 

 

僕が手を叩いて喜ぶとケイが割って入った

 

 

「おじさん大丈夫ー?経営とか結構きついんじゃないの?」

 

 

「ハハハ 心配しなくても、この界隈ゲームが好きな子も多いからすぐに元は取れるよ。」

 

 

オジさんはそう言うと店内のライトを点けにスイッチの方へと向かい、
1F、2Fそれぞれのボタンを押して上げた

 

 

「どうもありがとー、それとオジさん探して欲しいビデオのタイトルがあるんだけどお願い出来る?」

 

 

「なんて言うビデオだい?店内データ索引して上げるよ」

 

 

「えーとね・・・」

 

ダイゴがいつもの様に無茶を言ってオジさんを困らせていたので僕は気を利かせて間に割って入ってみせた

 

 

「あ、オジサン、そういえばさ、新しいゲーム入ったって言ってたけどどんなやつ?」

 

 

僕の様子に気付いたのかケイも調子を合わせて間に入ってきた。

 

 

「あー、そうそう、それ気になって今日来たんだよ俺たち」

 

 

そういうと、おじさんは手をポンと叩いて、少し待ってろという感じでゲーム基板のある棚を探り始めた

 

 

 

「えーと・・・これはこっちで、あー、あったあった」

 

 

 

 

オジさんが棚の奥の方にあった基板と、筐体用のインストラクションカードを手に持つとこちらの方に見せてくれた、取り出されたタイトルを目にした僕らは一様に興奮し、声を合わせて歓声を上げた。そのゲームは人気のポリゴン格闘ゲームの最新作でテレビメディア等で全国大会が放送される程の影響もあり、現在、どこの基盤屋でも在庫切れが相次ぎ、大型アミューズセンター等でしかプレイ出来ない程の大人気タイトルだ

 

 

 

「あー、スゴイ!これやってみたかったんだー」

 

 

学校ではいつも落ち着いた様子の細田くんが取り出されたインストにかぶりつき、
無邪気に喜んでいる

 

 

 

「それにしてもオジさんよく基盤入手出来たねー、俺も基盤屋探し回ってるけど今どこにも在庫見当たらなかったよ」

 

 

 

ケイは目を爛々と輝かせオジさんの持つ基盤に釘付けになっている

 

 

「ハハハハハ、メーカーの方に知り合いが居てね、社内倉庫の方にストックがあるからって特別に譲ってもらったんだよ」

 

 

「いいから早くやろーぜ!筐体で動く所見てみたいよ」

 

 

 

ダイゴは相変わらず強引に話しを進めようとしていた。元々彼はゲーマーでもあるので、人気の最新作を目の前にした時の気持ちは僕にもよく分かるがもう少し落ち着いてもらいたいものだ

 

 

 

「そうだね、僕も店主として動作確認をしておかなければいけないし、それじゃあゲームコーナーの方に一緒に行こうか」

 

 

 

オジさんはそんなダイゴの無茶なお願いにも慣れた様子で、終始穏やかな口調でニコニコと受け答えをしながら、店内のスイッチをいくつか押して、ゲームコーナーに行く準備をした

 

 

 

「ここ店内はビデオショップだって言うけどどこにゲームあるの?」

 

 

 

ホソダくんがまだ信じられないといった様子で問いかけると、ケイが店内の構造を要約して話してみせた

 

 

 

「どっちかっていうと、ゲームセンター兼 レンタルビデオショップかな」

 

 

 

細田くんがケイの応えに疑問の表情を浮かべていると、ドアの前に立つオジさんが手招きしながら話しかけてきた

 

 

「ハハハ、まあ、ケイちゃんの言う事も間違ってないね。今じゃこっちの方が本業みたいになってしまってるから」

 

 

「ビデオの方もちゃんと管理してよねー、ここら辺、ここ以外にロクなタイトルおいてないんだからー」

 

 

ダイゴの問いかけにオジさんは軽く頷きながら小脇に基盤を抱えながらドアを開けて、僕らとと共に店内2Fへの階段を降りていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわー、すげー!」

 

店内のドアを開くと細田くんが歓声を上げた

 

 

「また、筐体増えたんじゃないの」

 

 

ケイが見回しながらそういうと、オジさんは僕らに声をかけた

 

 

 

「空き筐体の方に基盤をセッティングしてしまうから、今は全筐体フリークレジットにしてあるから好きなゲームやってて待ってなさい」

 

 

「ウヒョー!役得役得っ」

 

 

ダイゴは手を擦り合わせながら、目当てのゲーム筐体にスキップで向かっていった。

 

ここはレンタルビデオショップパレスト2F。1Fのビデオコーナーと分断化され、広さ30畳程のフロアスペースにゲーム筐体20台を始め、キャッチャー系マシン、コイン落としやスロット等のメダルゲーム筐体の他、ガンシューティングや話題の体感・音楽ゲーム等の大型筐体まであり、店主の趣味で、本格的なゲームセンターとして独立して営業展開されてしまっている。

営業時間内には1Fのビデオコーナーの店員が2Fの機材管理も兼ねて働いており、立地的な問題もあり、終日学生や時間つぶしの主婦、サラリーマン等で賑わっている。

僕は興奮した様子で店内を見回すホソダくんに声をかけてみた

 

 

 

「どう、気に入った?」

 

 

「スゴイよねー、併設コーナーっていうからもっとこぢんまりしているのかと思ったけど、本当にちゃんとしたゲームセンターなんだねここ」

 

 

細田くんが感心した様子でそういうとケイが話しに入ってきた

 

 

「始めはフロアの端に2、3台ある程度だったんだけど、オジさんが悪のりで筐体増やしてったらこんな事になっちゃったんだよねー」

 

 

細田くんは呆れ顔で話すケイの話を聞いてから、店内の様子をぐるっと見回して僕らに質問してきた

 

 

「そういえばこのフロア、天井のライト全部消灯してるけど照明の不具合でもあるの?」

 

 

「あ、いやいや、これさ、俺らだけで遊びにくる時って店って大体、閉店状態でシャッターも閉めてるんだけど、日が落ちると店の明かりが漏れてるの不審に思ってチェックしにきたパトロールの警官の相手とかするの面倒だからって基本、機材チェックや俺らだけ来る時って筐体以外の照明は切って稼働する様にしてるんだって」

 

 

ケイの具体的な説明に細田くんは納得した表情で店内を眺めながら話を続けた

 

 

 

「そっかー、でもゲーム筐体全部点灯してると電気無い所でも随分明るいんだねー」

 

 

 

 

 

言われてみると天井ライト、蛍光灯等の光等の一切が消灯されたこのフロアには、スロットマシンやキャッチャーマシンのケバケバしい筐体光や大型筐体のタイトルLED等が閉めきった店内をオーロラの様に交差して、20数台あるゲーム筐体達が人気の少ないフロア空間を独特の金属音で賑やかに盛立てる独特な空間である。

その光景は一見して不気味だけど、僕はオジさんの作ったこの大人の秘密基地の様な独特な雰囲気の場所がとても好きだった。

 

 

退屈な進路相談、どうでもいい噂話、役に立つか分からない課題の授業。不安で色気の無い僕の学生生活を癒してくれる仲間と遊び

 

 

 

「みんなー、基盤のセッティングが済んだからこっちにおいでー」

 

 

 

オジさんが僕たちを呼ぶ声がして、僕らは筐体の前に集まり、基盤が差し込まれたばかりのゲームのデモ画面を楽しそうに眺めながらオジさんがテストプレイを始めるのを待っていた

 

 

 

「それじゃあ、始めるよ」

 

 

 

「あ、俺もやるやる!対戦できっしょこれ?」

 

 

 

ダイゴが挙手をしてオジさんの隣に座り乱入プレイを挑む。交代でプレイしながら次の順番を待つ僕ら、そして時間を忘れて遊び、夜が近づき、外は燻る様な曇り空から一転の豪雨、閉めきったフロアに飛び交う光は益々濃さを増し、カーテンの隙間から時折除かせる外光と混じり合いスモークの様な空間を演出していた

 

 

 

 

 

ビデオショップ パレスト2F 臨時ゲームセンター
僕はまだ名も無いこの場所を心の中で、こう呼んでいた

 

 

 

 

 

「レトロゲームアイランド」

 

 

 

 

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