本日は、クラス1組~3組合同による道徳授業の為、視聴覚室にてエイズ撲滅運動として何故か病気の感染と避妊等の知識に関するビデオを観せつけられた後、視聴後、余った時間で生徒達同士による性感染に関するディスカッションという名目の自習時間があるのだが、この間、教師が席を外してるのをいい事に、色気づいた男子生徒の一部が女子とエロ本で得た知識で付け焼き刃のピロートークを繰り広げていたり、教室に持ち込まれた雑誌・漫画本等を生徒間で回し読みしたり、ビデオの途中で飽きて眠りこけたままの生徒が居る等、それぞれの持ち場で生徒のやり放題となっていた
僕もクラスメートが持ち込んだゲーム雑誌等を友人3人で囲んでツッコミ等入れながら楽しく読んでいた所、後ろから背中に妙に固い物が当たる感触があり、驚いて振り向くとそこに奴が居た
「コマツ・・・これ、俺が大切にしていたCDだけどお前にやるよ。だからまず俺の話を聞いてくれないか?」
この小太りな生徒は一応僕の友人の水口という奴で、アニメ・漫画等を趣味としており特に声優にかける情熱は凄まじく、少なくとも月に5回位はお気に入りの声優のコンサートに足を運ぶ程の強者だ。
実家は本校からかなり遠い場所にあるらしく、親の仕送りを受けながら学校の近くのアパートに独り暮らししているという事なのだが、その殆どを趣味の私財として肥してしまう為、現状、奴の生活は仕送りで足らず、近場のコンビニでバイト等して生活費を賄っているらしい。
僕と奴の出会いは学校帰り、校門前でこいつが本を読みながら号泣していた所を心配した僕が声をかけると「手塚先生・・・」と、一言漏らしたので何事か尋ねてみた所、何故か手塚治虫の凄さについて小一時間程一方的に力説された後、火の鳥の単行本全巻を押しつけられて以来の腐れ縁である。
「まず、というなら先に俺のケツに当てたそのCDをどかしてもらおうか、そして選択肢の無いその質問の内容を話せよ」
僕がそういうと水口は手元に戻したCDをじっと見つめ、うつむいて下を向いたまま話を続けた
「・・・スゴいんだぜ、このアニメ」
「いや、だからお前の目的はなんだよ、何故俺に話しかけてきたかを先に教えてくれよ」
僕は相変わらずマイペースで話しを進める水口に呆れきった様子で話しを急かすと彼は答えた
「そうだった、これをやるから是非お前に・・・」
「いや、だから、それは後にしてまずお前の抱えてる問題を話せよ!」
もはや漫談の様な掛け合いに、僕の周りで雑誌を読んでいた二人も気になったのか声をかけてきた
「コマツーどうしたのー?誰ー?」
「あ、悪い、悪い。これ俺の友達で1組の水口って奴なんだけどサ」
僕が奴の紹介をしてると、その横の級友が水口の持っているCDに反応し声を上げた
「あっそのサントラこの前始まった深夜アニメのやつじゃん!」
「マジで!?あれ俺も好きなんだけどもう出てんだ」
二人の食いつきにまんざらでもない水口は得意げな表情を浮かべ話しを続けた
「おっ知ってる!?いやー、通だねー君たち。これ通販限定のやつなんだけど・・・」
「いやだから先にお前の話ししろって!」
一向に進まない話しに僕が業を煮やすと水口はハッとした表情で我に返り、
とりあえず目の前の二人にそのCDを渡して僕に小声で話しかけてきた
「いやー、わりーわりー、実際、あんまり人前で相談出来る話しでもなくてさ・・・コマツ今日放課後時間空いてるか?」
「特に用事もねーけど、なんだよもったいつけて」
「まあ、出来れば静かな所で話したいんで、俺今日バイト非番なんだけど店のスタッフルームが16~18時位丁度誰も居なくて空いててさ、お前も関係者って事で中に入れてやるからそこで話し聞いてくんない?」
思いの外真面目な表情で話しを続ける水口に対し、僕も話しの内容を聞かない事には先が気になって仕方がないので
とりあえず軽く頷き返事をしてやった
「で、君たち、このサントラの入手先なんだけど!」
「だからお前帰れよ!お前らももう担任戻ってくんぞ!」
自分の持ち寄ってきたCDの説明をこれみよがしに続けようとする水口を軽くいなすと、
僕は彼の言いかけた話しの内容に考えを巡らせていた。
日頃、一方的に話しを捲し立てる事は結構あっても、頼み事等はあまり人にしてこない奴なんだが、あいつのお願いというのはなんなんだろうか・・・
というか僕は奴の話を受け入れても良かったんだろうか
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