ここは市大高校、下駄箱前廊下。僕が細田くんを誘っていた頃、
待ち合わせ中のケイは別の生徒と会話を繰り広げていた
「おい、ミツシマっこの前貸したビデオ観たか?
ドイツのスプラッター映画、格好良かったろ~、あれまだ輸入して間もないんだぜ、どうだった?」
大柄な体格と大きい声で独特の発音とジェスチャーを捲し立てる
彼の姿は、下校時間、全校生徒達で混雑する下駄箱前においても周囲の視線を煽るにあまりあるもので、
ケイはそんな生徒達の視線から逃げる様に一歩引き気味にその会話に対応していた
「観たくねーよあれ、なんかパッケージで女の首もげてんじゃんか」
そういうと背の高い生徒は頭を抱え、
軽くうなだれる様に前のめりになって話を続けた
「っんだよー しゃーねーなー!じゃあよ、この後、映画館行かね?二駅先の所に良い感じのミニシアターがあってよ、そこの上映スケジュールが良くてさあ」
相変わらず大声で捲し立てる落ち着きの無い相手にケイは少々戸惑い気味に目を泳がせながら、待ち合わせ中の僕の事を気にしつつ話を続けた
「どうせまたチケット奢らせんだろ、
それに今日この後ユースケとパレスト行く約束してんだわ、だからわりぃけどまた今度な」
と、ケイが誘いを断ると背の高い生徒は食い気味に話に割って入ってきた
「えっ!ナニナニ?ユースケとパレスト行くの?
俺今日登校ん時に店の前通りがかったけど臨時休業って看板出てたぜ?」
「ゲームコーナーの方で入荷したばかりの基盤の動作チェックするってオジサンが言ってて、
今日は俺達で店使っていいって言うから」
「じゃあ、俺も呼んでくれよ、
観たい洋画のビデオがあるけどそこじゃねーと置いて無いっぽいんだわ」
「今日はビデオフロアはやってないだろうし、
ユースケに同行してもいいか確認してからの方がいいんじゃね」
ケイが返事を渋ってると廊下向こうの階段を降りてくる細田くんと僕の事に気付いた背の高い生徒が駆け寄っていった
「こ・ま・つ♪」
そう言うと、彼は僕の肩を両手でハグ気味に握りしめ、僕は少々面食らった様子で名前を呼んだ
「あっダイゴっ?どしたん?」
この身長185cmは雄にあろう大柄な生徒は川島大悟といい、自宅に5台のビデオデッキと2台のLDの他、プロジェクターやスピーカーセットまで設置している熱心な映画・ドラマコレクターである。
背も高く、顔もそこそこ良いので、黙っていれば女子生徒からの評判も良く、少し前にも、映画趣味だと彼に言い寄ってきた別クラスの女子生徒と映画を観に行ったものの、その作品の内容が、首が飛んだり糞を食うといったとんでもないカルト映画で、その常軌を逸した演出に堪えきれなくなり、上映中に大声で泣き始めてしまった女子に対して
「ウルセーから出ていけ!」と、
館内から絞めだして、一人でその映画を最後まで観たという噂話まで流れている。というより本人が自慢気に話していた事なので事実なのだろうが・・・
僕やケイとはビデオショップ「パレスト」で、彼が洋画ビデオを探しに来た時、ゲームコーナーの方で出くわして知り合った以来の共通の友人である。
ちなみにゲームの腕前はかなりのもので、時間潰しに始めたシューティングやパズルゲーム等をワンコインで閉店時間までループプレイ出来る程で、過去にそれが原因で数件のゲームセンターから出禁を食らっている。旅行を兼ねて地方や都心部のゲーム大会に参加する事もあるらしい。
「ケイとパレスト行くんだろ、俺も用事あるんだけど連れてってくんない?」
「えっ?」
ダイゴのいつもの強引な誘いに、僕は向かいのケイの表情を汲み取りつつ、同伴している細田くんを気遣う形で話を進めた
「オレはいーけど、今日は僕の友達も来るんだけど、彼がどうかな?」
僕はそういって細田くんとダイゴの所見を確認した
「僕は構わないよ」
思ったよりあっさりと同伴に了承した細田くんにダイゴがノリの良い口調で話しを続けた
「よっし よし!え~と、そっちの名前は・・・」
ダイゴはそう言って、後ろに手を回してウナジをポリポリと掻きながら細田くんに少し照れくさそうに名を尋ねると、彼は爽やかな笑顔でダイゴに左手を差しだし握手を求めた
「細田英治です、ヨロシク」
ダイゴはその申し出に快く応じ自己紹介を続けた
「初めまして、ダイゴです!川島大悟」
互いの自己紹介が済み、僕とケイと細田くんとダイゴは場の流れでパレストまで同伴する事になった
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