教室から生徒達のざわめきと歓声が一斉に起こった、
細田くんは、パソコンが趣味で自宅に100万近くする機材や通信設備を整え、自分でゲームのプログラミング等も出来るらしい。僕とは「ゲーム」という共通の趣味がキッカケで休み時間にしばしば歓談をする事がある程度の間柄で、社交的な雰囲気こそ無いけれど、特有の要領の良さと立ち居振る舞いで、基本的にどんな生徒とも軽くフレンドリーに接する事が出来、他生徒からの評判も悪くなく、頭の切れる秀才という印象の生徒である。
「おーじゃない!お前ら馬鹿か?高校2年になって、試験でロクな点数も取らずにゲーム作って雑誌に載って、これが受験に何の役に立つか少し考えてみろ!」
奴はそういうと開いた雑誌を丸めて、教卓に「バンバン!」と叩き付けながら生徒を見回す様に威嚇してみせた。
この担任教師は内田といい、担当科目は語学。メガネに七三の細面で、いつも紺色のスーツを着込みその日の気分により自前の扇子で生徒の頭をパシんと叩き、鬱陶しい受験論、社会論を語る等、性格に難がある為、僕を含め生徒達からは基本的に嫌われている。
特に、特定科目以外の成績が異常に低く教師に媚びない細田くんとは相性が悪い様で、試験後の点数発表や成績表の件等でよく揉めているらしい(といっても内田が一方的に絡んでいるだけなのだが)
「こんなもんなー、大学入るのに何も役に立たんぞ!本載ったっても指名手配と変わらんわい!」
「・・・」
細田くんはその挑発的な罵倒を眠そうにしながら見ている。
「おい細田ー、お前なんか言ってみぃ!」
無反応で流すその姿に業を煮やしたのか、内田が本人に直接食ってかかると、彼はやる気を無さそうに返答した
「はい、そう思いま~す」
その一言に教室の生徒達がドッと沸き返る中、僕がヒヤヒヤしていると奴は顔を真っ赤にして一括した
「うるさいっ!」
丸めた本を教卓に叩き付けられると、生徒達は一斉に静まりかえり、教室がシンと静まりかえる中、奴の咳払いが一つ鳴り響いた後、一転穏やかな口調で話が続けられた
「ともかくだ、君らはもう高校2年生。今年の学業での行動、成果がそのままその後の社会生活に影響するという事を念頭に持って、しっかり授業に取り組む様に、以上。本日は終了!」
生徒による終業の号令が済み、鬱屈な空気から逃げるようにして教室の生徒達がクモの子散らす様に立ち去る中、僕の後ろで今日のホームルームの主役がゆっくりと帰り支度を整えていた。僕はそんな彼が気になり、そろりと彼の席へ近づき声をかけてみた
「あの、細田くん?」
「ん?ああ、小松くんだよね、何か用かい?」
僕は彼に先程のホームルームでのやり取りを小声で耳打ちして話の探りを入れてみせた
「さっきの酷かったね~。ても凄いよねー、自作ゲーム掲載されるなんて」
僕がそういうと彼は口に手を当てて特徴的な含み笑いをしてみせた
「どうしたの?」
「フフフフ・・・ん、まあちょっとね、今ここで教えて上げようかと思うんだけど、学校内じゃ流石にまずいかなって」
「えっ何 何?気になる?」
「いや、まあ良かったら一緒に帰らない?
小松くんのうち僕ん家とそんなに離れていなかったよね」
「うん、いい・・・」
と、言いかけた所で僕はケイとの約束を思い出した
「どうしたの?」
僕はこちらからから話しかけた建前もあり彼の誘いを一方的に断るのも悪く思い、彼をケイと会わせパレストへの同行を試みる事にした
「あの、細田くんはゲーセンとか行く?」
「うん、アケゲーはそんなに得意じゃ無いけど、好きなゲームとかあるし休みとかたまに遊びに行くよ」
「だったらさ、あの俺今日1組の美津島っていう奴とその親戚がやってるゲーセン行く約束してるんだけれど、細田くんが嫌じゃなかったら一緒に行かない?」
そう言うと、いつもクールで表情をあまり変えない彼は、顔をパッと明るくし僕に返事をしてくれた
「本当にー!この辺ゲーセン少ないから新しい店紹介してくれるなんて嬉しいなー!是非連れて行ってよ」
そんなこんなで僕は細田くんを連れて下駄箱で待つケイの元へと向かう事となった。
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