水口の棲む家

category : レトロゲームアイランド 本章 2014年12月23日 

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約束の2週間後の夜半。水口から僕の自宅に電話があり受話器を取るや否や

 

 

「すぐに来てくれ!」

 

 

と、焦った様子で一方的に切られ、仕方なく僕はハイリ先輩を自宅から連れだし奴の家へと直行している途中である

 

 

「先輩すみませんこんな遅くに・・・」

 

「いいわよ、受けた手前その後も気になっていたしね」

 

 

そして、水口の部屋のドアの前に立った僕がインターフォンを押そうとすると、後ろでハイリ先輩が僕の肩にすっと手を置いて忠告してきた

 

 

「コマツくん・・・気をつけて、中に大きいのがイルワ」

 

 

重い表情で僕の顔をじっと見つめるハイリ先輩の表情は真剣そのもので、いつもの少々穏やかでトボけた様子などは微塵も感じさせなかった

 

 

「あ、ああ、あのタンスの中の女の子でしたっけ?」

 

「いえ、あれは悪戯好きな妖精みたいなもんよ、そんなんじゃなくて、、、何かとても暗くて重い・・・・」

 

 

ハイリ先輩がドアの前で思い悩んでいると、ドアがもの凄い勢いで開き、前に立っていた僕ははじき飛ばされた

 

 

「ってーな・・・お前何すんだよ」

 

 

玄関に立つ水口は口を大きく開け、半白目でマバタキを一切せずドアノブを掴んだまま僕にこう話しかけてきた

 

 

「ヤア、マタアエタネ!」

 

 

喋ってる内容の荒唐無稽さ以前にその声質は明らかに一般的な人間のそれとは異質なもので、何か元の声帯に何重かのハーモナイザーをかけた様な、例えるならテレビの万引き犯罪特集で男性犯にかけられる音声合成による、低く、重い声質といった感じだった。

そして、目の前の水口の様な何かは僕の首とハイリ先輩の腕を掴み、もの凄い勢いで僕等を引きずり込み部屋の中へと放り投げると、鍵を閉め、アノブの前に立ち、化け物のそのものといった異形の形相で僕に話しかけてきた

 

 

「ヤア、マタアエタネ」

 

 

僕が異常な様子の奴を見て恐怖に戦いていると、ハイリ先輩が息を切らして語りかけてきた

 

 

「コマツくんっ 彼取り憑かれてるわ!」

 

「えっ!?なんすか?」

 

 

あまりの出来事にパニックを起こしていると、どうやら憑かれてしまったらしい目の前の水口が殆ど光の無い室内でジリジリとにじり寄ってくるのが肌で感じ取れた

 

 

「ヒィ!」

 

 

僕が恐らく産まれてから出した声の中でワースト3には入るだろう情けない悲鳴を上げると、目の前の水口風の化け物は一方的に話し始めた

 

 

 

「マタアエタネマタアエタネマタアエタネマタアエタネマタアエタネマタアエタネ・・・」
言葉というより、まるで呪文の様に同じ言葉を繰り返す目の前の奴は僕の首を両手でぐっと締め上げて持ち上げた

 

 

「グッ・・・ウウウ・・シヌ!」

 

 

暗闇に包まれた室内の景色が意識が遠のくに従ってホワイトアウトして自分の意識が飛ぶのを感じ始めたその時、目の前を別の大きな光が照らすのを感じた

 

 

「ぁ゛゛゛゛ぁぁ゛゛゛゛゛ぁぁぁぁぁぁぁ゛゛゛ああああ゛!」

 

 

水口っぽい化け物が犬の様なうめき声を上げて苦しんでいるとハイリ先輩が大声で叫んだ

 

 

「コマツくん!アカリをつけて頂戴!」

 

「ゲホッ!ゲホッ!」

 

 

たった今死にかけた余韻に浸る間もなく、本能的に危険を察知した僕は、この前部屋に来た時の間取りを手がかりに暗闇の中を壁伝いに手探りで水口の家の電気のスイッチを探り始めた。

そして探り当てた電気のスイッチをつけると部屋に絶叫が轟いた

 

 

「ヴァーーーーーー!」

 

 

そして水口らしき何かはバタリと倒れ、部屋には腰を抜かした僕と、汗だくの状態でペンライトの様な物を倒れた水口に当てるハイリ先輩が居た。

 

 

「せ、先輩・・・・?」

 

 

僕が抜けた腰を庇う様にして壁にもたれかかりながら恐る恐る問いかけると、先輩は優しく微笑んでこう答えた

 

 

「もう安心よ、少し落ち着いて話をしましょう」

 

 

程なくして意識を失った水口がハイリ先輩の独特な活の入れ方(ミゾオチに思い切りヒザを入れる)により改めて死にそうな状態になりつつも目を覚ますと、先輩はこの部屋に取り憑いた霊について説明してくれた。

先輩が言うにはこの部屋には、この前先輩が霊視で発見した人畜無害な女の子の霊の他に、もう一方、たちの悪い悪霊が棲み着いており、こいつは基本暗所でしか活動出来ず、光の灯っている間は反射物等、鏡面体を自由に行き来して表に出るタイミングを見計らっていたらしい

水口の奴は基本寝る時もミラーボールをつけたり等、自分が居る間は電気を消す習慣が無かったので直接的な被害を感じず、適当なイタズラをする少女の霊の方ばかり気になっていたんじゃ無いかと言う事だ

 

 

「成る程ねー・・・」

 

「ナルホドじゃねーだろ人の事殺しかけておいて!」

 

 

適当に相づちを入れる先程まで取り憑かれていた奴に複雑な怒りをぶつけているとハイリ先輩が僕に尋ねてきた

 

 

「そういえばコマツくん、さっきアイツに「また会えた」とか言われてたわね?」

 

「あ、はい、覚えは無いんだけど・・・」

 

 

と、首をかしげる僕が部屋を見渡すと、この前ここで見掛けた青年の肖像画の様なものがあった筈の位置に何も貼られておらず、そこにあった筈の場所に鏡が置かれているのが見えた

 

 

「おい、水口、お前ここに何か変な写真みたいなの貼ってなかった?」

 

「いや、そこ前からずっと鏡しか置いてないけど」

 

 

僕は奴の一言を聞いた瞬間、背筋に寒気が走るのを感じた。そう、先日僕が見た静止画だったと思っていた物こそ先程僕が殺されかけた悪霊そのものだったのである

 

 

「それで先輩オレは後どうすればいいんでしょーか?そんな化け物と一緒に居るのは自分も怖いんで何とかしたいんですが・・・」

 

 

水口が怯えた様子で先輩に対処策を尋ねると先輩は丁寧に説明を始めてくれた

 

 

「まあ、簡単な話よ、とりあえずこの部屋に自然光が入る環境を整えて頂戴」

 

「というと?」

 

「前も言ったけど、ここ、空気悪すぎてそういうのに取り憑かれる環境も出来ちゃってるのよ。加えて窓にまでポスター貼りめぐらされているせいで表からの光が遮光されて、今回みたいのが育っちゃう訳。だからとりあえず部屋中のポスターを今すぐ全部剥がして一週間程普通に生活してみなさい。

さっきの奴、月光にすら堪えられなそうだから、数日真昼の太陽が入り込めば自然消滅するでしょ」

 

 

丁寧親切に事細かな対処策を話してくれるハイリ先輩に対して水口は眉をひそめて露骨に嫌な表情を見せた

 

 

「オイオマエ サッキヒトコロシカケテンダゾ」

 

「グッ・・止めてくれっ コマツガ取り憑かれた」

 

 

と、この前と同じパターンが数秒続いた後、また同じ様にハイリ先輩が割って入り静止してみせた

 

 

「ゲホッ!ゲホッ! いやこれ結構な数あるから剥がすのめんどいし、コレクションものもあるから折り畳むと価値下がるしどうしようかなって思ったんだよ」!」

 

「お前命と趣味天秤にかけてみろよ!」

 

「悩むね!」

 

「死ね!」

 

 

相変わらず軽薄な様子の奴に今夜中にでも部屋中のポスターを剥がす様強く指摘して何とか納得させた後、一つ気がかりな事が残っていたのでついでに尋ねてみた

 

 

「そういやお前、この前除霊予定だったタンスの幽霊どうしたんだよ」

 

「いや、それが先週位からそいつが起こしてたっぽい心霊現象がぱったり止んじまったんだよ・・・・」

 

「お前なんか変な事したんじゃねーの?」

 

「失敬な!霊でも一応女の子だと思って女性向けっぽい古着やマンガ雑誌とかタンスの中にそっと忍ばせたり、寝る時にオヤスミってさり気なく囁いたり共存を目指す形で様子見ていたんだぞ!」

 

 

僕が水口の予想以上のサイコパスっぷりに僕が呆気に取られていると、ハイリ先輩が霊が憑いていたというタンスを何か虫眼鏡の様なものでのぞき込み2、3分程調べた後、こう言い放った

 

 

「居ないわね」

 

「!?」

 

 

恐らくベクトルは違うと思うが僕と水口の両方に衝撃が走った。水口はハイリ先輩にかけより、先輩の肩を両手で掴みガクンガクンさせながら鬼の様な形相で尋ね合せた

 

 

「居ないっなんですかぁぁ!僕が何したっていうんですかぁぁぁ!」

 

「しっ知らないわよ!少なくともこの前ここに棲み着いていたはずのあの子は居ないって事よ!良かったじゃない成仏できて!」

 

 

全く先輩の言う通りなのであるが当の水口はそんな先輩の言葉を無視してタンスにすがり大粒の涙を流しながらボソりと呟いた

 

 

「ユウコ・・・・・」

 

「じゃ、じゃあ俺ら帰るから・・・ポスター必ず剥がしておけよ」

 

 

ただ事ならぬ奴の悲壮感と触れちゃいけないっぽいその名前の事は敢えて尋ねず、僕とハイリ先輩は奴の自宅を後にした。

 

 

 

 

 

 

ハイリ先輩を自宅に送り届けた僕は、自宅に直帰すると2F自室のベッドに倒れる様になだれ込み、テレビのリモコンを手に取り今日観る予定だった最終回のドラマにチャンネルを合せた

 

 

「あー、なんだもう始まってんじゃんかー」

 

 

テレビに向かって愚痴をコボしつつも放映されるドラマに没頭していた僕であったが、短時間に色々あり過ぎた今日という日の疲労感は僕が思っていた以上のものであったのか徐々に睡魔に襲われ、展開がクライマックスに差掛かった辺りで意識が飛び深い眠りについた

 

 

 

 

 

 

 

「ん・・・あれ?」

 

 

僕はまるで気絶した様な感覚で目を覚まし部屋を見渡すと、少しして自分が眠りに落ちてしまった事に気付いた。

時計を見ると午前2:30 点けっぱなしだったテレビは既にチャンネルの放送時間を終え、砂嵐のノイズが静寂に包まれた室内をザーザーと騒がせていた

 

 

「やべーやべー、着替えもしてねーし風呂にも入ってねーや」

 

ボソボソと独り言を呟く僕が、とりあえずテレビを消そうとリモコンを手に取ると、目の前の砂嵐が徐々にうねり何かの形になっていくのが見て取れた

 

 

「???」

 

 

何か顕微鏡で見る微生物の様なその複雑な蠢きはテレビを消そうとした僕の動きを止め画面に惹き付けさせていた

そして、3分程経った辺りで、散らばったノイズが一つの顔の形になり、画面越しに僕の目を見ながらこう言い放った

 

 

 

 

 

 

afx

「ヤ ア 、  マ タ ア エ タ ネ  !」

 

 

僕は家中に轟く大きな叫び声を上げて、反射的にテレビの電源を切った。

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