トリックピエロ

 

VAMPIRE



島田
「そんで、ネタは?
本気でネコの死体なんぞ出しやがったら
お前、即刻首にするぞ」



中野
「冗談じゃありませんって」



神山
「納期ね、本当ヤバいぜ。
大丈夫かい?」










神山は顔をしかめながら、
今月発行予定の月夜の表紙を指差した








美香
「もう、入稿しないとー」










また美香も同様に神山の指差す表紙を見つめ不安気な態度を示している










中野
「っと…これ」










正太郎はバッグの中から先程明彦に手渡されたピエロのCDを取り出した。










島田
「Rデータか。」



美香
「へー、可愛いジャケだねー」










美香は取り出されたCDジャケットを手に取り、
イラストと構図を目の中で回す様にして嗜めてみる









神山
「で、これって一体、
中、なんなの?」



中野
「へへ…だから、冗談じゃないんだって」










正太郎の曖昧な返答に島田は間を置かず返答した










島田
「意味解んねーよ」











サジを投げかかった島田の反応をサポートする形で神山が割って入った











神山
「ヤバいもんって事?」





神山の伺う様な目付きに正太郎はニヤりとした表情を返応える





島田
「とりあえず中見せてみろ」








正太郎は自分のデスクに編集員を招き席に着くとPCにディスクを挿入した。








美香
「やー可愛い♪」



島田
「おいー…お前なんだこりゃあ?」




神山
「正太郎君ー(^^;」









モニタの中でナビゲータのピエロがハシャギ回るのを見て三人が疎らな反応を示すのを無視して、
正太郎はカーソルで問題の映像をクリックし再生した




















神山
「ヒでぇ…」



美香
「キモー…」



島田
「こりゃぁ…
どこでこんなもん仕入れたんだよお前」










島田はモニタの中を前かがみに覗き込みながらそう聞いた










中野
「とある知り合いからね、
僕先に見ましたけど間違いなく本物ですよ」










日頃、仕事で過激な映像処理を行う彼等でも、
モニターに映し出されたその光景に
圧倒されるばかりだった










神山
「そりゃ、見れば解るけどさ…
大丈夫かなー、これ」



美香
「うーん…」



中野
「どうですか島田さん?」











正太郎の問いに島田は眉間にシワを寄せて返事した









島田
「中野よー、確かにこりゃ良い素材だ、
けど、捌く場所が難しいわな」





中野
「…」




神山
「ですね、うちみたい優先取引先中心に確実に部数上げる出版なら、
最低限の入庫数は確保出来るかもしれませんけど…」




美香
「でもさー、これホントに今までのヤツと雰囲気全然違うよね。
本当に殺ってるっていうか…」




島田
「それが問題だ。

ゴシップなんか都市伝説まがいの
特定不能な事件ならいざ知らず、
この場合やってる奴等が映像の中に存在しちまってる」










島田はモニタの中に移る疎らな人影を指差しながら、
ハッキリとは移らないそれ等を指で囲う様にナゾりつつ
難しい表情を浮かべながら三人に伝えた









神山
「ですね…まあ、素人さんじゃないのは、
誰が見ても明らかですし」












美香が溜息混じりの神山の反応に脅える様にして、
聞き返した











美香
「トラブル嫌だよー(^^;」




中野
「ヤーさん絡みですか。
確かにそんな臭いは感じますけど」










正太郎の応答に島田が続けて反応する









島田
「ヤベーんだよ、ブラックビジネスは。
洒落の通じない馬鹿が多いから」










神山が島田に続いて入る










神山
「洒落で命落とす例も後断ちませんからね…」










更に正太郎が三人の曇った表情を拭う様に
その間に割って入る









中野
「実は、このCDね、ネットから漏れた不正情報経由して、
僕の友人の手元に届いたんですよ」









正太郎の発言に美香が身を乗り出し大きく反応した









美香
「こわー…でも最近よくそういうの不正流出するよね、
どっからきてんのか知らないけど」










美香に被せる様に正太郎が続けた










中野
「そう。最近、こういうヴァーチャルからの情報流出って
出所不明なもんが殆どじゃないですか」










島田が頬を手の平で触りながら続ける










島田
「で?」





中野
「一昔前の都市伝説みたいに、
そういう曖昧な情報の探求・発見こそサブカルチャーの極みですよね。」



島田
「だからやるってか」



中野
「はい」




神山
「でも、正太郎君、あれ系のは誇張が殆どだったけど、
これはもう明らかに意図的な計画犯罪っぽいし…」



美香
「うーん…私も興味はあるけどなあ…」



島田
「中野、お前の言う事は正論だし俺もこのVには興味ある。」



正太郎
「はい」










光り輝く正太郎の目に応える様にして
島田の口から力強い言葉が放たれた









神山
「いいんですか島田さん?」



美香
「あたし、編集作業は手伝うけど担当はパスね。」



中野
「解ってるよ、企画名義は俺でやるから。」










正太郎は煙たがる美香を抑える様にそう返事した









島田
「とりあえず俺の一任じゃ権限ねーからな。
今、編集長に連絡入れる。」











島田の一言に正太郎はホッとした様子でおおきく礼をした










正太郎
「よろしくお願いします」




島田
「それにしてももうイッパイイッパイだ、
デスクに戻ってさっさと各担当の入稿済ませてくれ」





正太郎
「はい」



神山
「ういっす」



美香
「わっかりました〜」










島田の落ち着いた指示にいつものペースを取り戻した三人は、
それぞれ向かい合わせにデスクに座り仕事を再開した










正太郎
「ふー…」










「カチャッ…ウィーン…」








「ケケケケケケ…」











正太郎が席につき、PCモニタの電源を入れると画面の隅で、
先程挿入したCDのナビゲータのピエロが、
血のついたナイフを両手に持ちながら笑い続けていた









正太郎
「…」








正太郎が無言でそのピエロを見つめていると、
美香が首を伸ばして正太郎のPCのモニタを覗き込みにきた








美香
「うわー…ホントにいい趣味ー(^^;」





「ウィーン」






正太郎がCDのイジェクトを押しCDを取り出すと
中から真っ赤なレーベル面が顔を見せ、
モニタの中のピエロが手を振り消滅していった









神山
「美香ちゃん、データ転送したよー」










神山の呼びかけに美香は態勢を自分のデスクへと立て直し
キータイプを再開した










美香
「はいはーい、今やるー」





正太郎
「さて…と」










正太郎は今月入稿分の企画「REAL」について、
入稿を始めた
















REAL

/// 妄想の行方 ///




吸血鬼、西欧ではヴァンピールと呼ばれるその怪物の伝説には、
人々のある種のことに対する恐怖心から発生したという説があるそうだ。

それは、噂の発祥した地の風習である
「土葬」に対する人々の恐怖心から生まれた口込みから生まれたらしい。
日常の中に突然襲いかかる不条理な死に対する恐怖から。

西欧では、死者の弔いには
犯罪者または疫病死以外は火葬ではなく土葬にする習慣がある。
ほとんどの死者がこの土葬にあたるとの事である。

そして、ごくまれに、
生きているのに死が訪れたと誤診され棺桶の中に入れられてしまうと、
そのまま土葬にされてしまったとの事だ。

生きている人間がこのこと(生き埋め)を想像すると
同時に耐え難い恐怖が生まれてくる。

死を判定するのは人間であり、まだ医学が十分発達していないこの時代に、
誤った死の判定を下されても仕方がないとの事であった。
これが、早すぎた埋葬への恐怖心。

この種の恐怖心は集団意識の中で拡大する事こそあれど、縮小することはまず無い。
その中で、生き人が墓の中で再び息を吹き返し、
蘇った死人(人間)が地上を出歩くというような俗説が生まれてきたのだ。

さらに一度死人と判断された死体は生前のままではなく、
なにを糧にして生きていくのであろうか?

人間が動物で栄養を取るという考えのように、
よみがえった死者は人間を栄養源にして、
生きていくのだという俗説の妄想が「Vampire」という
モンスターの実態という捉え方が可能だ。


編集員
〔中野正太郎〕























正太郎
「人として生きる怪物ね…」









正太郎の独り言に美香が反応し再びモニターを覗き込みにきた







美香
「あー、これ知ってるー。
都市伝説の実態とか、最近流行ってるよね。」





正太郎
「うん、美香さん信じる?」








正太郎の話しに美香は若干戸惑いながら答えた。








美香
「っていうか、伝説の方が子供の頃からの認識もあるから、
今更こういう話し聞いても理解しずらしいよね(^^;」








向かいの席に座る神山が編集書類に目を通しながら答えた









神山
「そうそう、原始時代じゃないし。
今って出来てないもん殆どないじゃん。

俺等がいくら情報収集してもさ、
結局どっか人為的な嘘で育てられてるんだよ」





正太郎
「映画、アニメ、小説、演劇…」








正太郎がモニターに視線をモニターに向けたまま、
キータイプで入稿を続けながら、
該当のメディアを淡々と口にしていった








美香
「でも、楽しいならさー
どーでもいーじゃん」





正太郎
「このCD作った奴、吸血鬼だったりして」








神山が笑いながら返事をした








神山
「じゃー今晩お清めに餃子でも食べとくか正太郎君」





正太郎
「奢ってくれんの?」





神山
「宿代の御礼ね」








食事絡みの話しと聞くと、
すかさず美香が間に入った








美香
「アタシも乗ったー」




神山
「美香ちゃん今日、ライブ行くんじゃなかった?」




美香
「時間遅いし平気ー。御腹減ってると踊れないし(笑)」



正太郎
「ほんじゃ、今日はお祓いパーティーって事で」










神山が携帯で話しを続ける島田の方を横目で見ながら続けた










神山
「そーだな、島田さんも誘ってくか。
霜月編集長は相変わらず出張で出てるみたいだし。」



正太郎
「うっし…」









電話しながら3人のやり取りを聞いていた
島田が携帯の電源を切り語りかけてきた










島田
「わりーが、イケねーなぁ、
そのパーティーよ」









その返答に反応した美香が島田の予定を伺った









美香
「なんかあるんですかー島田さん?」





島田
「今、編集長と連絡とってな、
正太郎のデータと企画の件について承諾依頼出したんだ」









正太郎が息を飲んで島田の返答を問い質した









正太郎
「どうです?」




島田
「とりあえず、7:3でOKって感じかな。編集長もノリ気だけどよ、
当人から企画の主旨が聞けない事には実行云々の段階じゃねーからよ」





正太郎
「それで?」





島田
「とりあえず、今夜業務終了後、
新宿のホテルで編集長と落合う。
正太郎、俺とお前で行くからな」









神山がその答えに少し残念そうな顔で口を開いた







神山
「パーティは延期だね」



美香
「あーあー…」




神山
「デートで行くかい?」









神山の軽いノリに美香は即答した









美香
「やーよ、眠り薬でも使われたらたまんないもの」




神山
「自意識過剰だよアンタ(^^;」










正太郎はハツラツとした様子で島田に返事を返した










正太郎
「解りました、霜月さん出張先から戻るの
丁度、今日の勤務終了時辺りですよね」









正太郎の様子を見ていた神山が横らチャチャを入れる









神山
「また要らない妄想壁伝えて企画ポシャるなよー」



美香
「正太郎君たまにトリップするもんね(^^;」










正太郎はそのチャカしを追い払うように返事した









正太郎
「解ってるよ(^^;」

Last Update : 2004/11/02