トリックピエロ

 

WARASHIBE


















「ガチャッ」



明彦
「あっ!やっぱり!」


須藤
「やあ」




明彦は須藤の顔を見るなり危機迫った表情でドアを内に引きこんだが、
その瞬間、須藤の左手が間に挟まりドアが塞がるのを食い止めた












「ゴガッ」













明彦
「…」











明彦の目に今朝見た腕時計が裾から顔を出している












須藤
「ピエロの事、教えるよ」




明彦
「…」




須藤
「ここじゃあ話せない」















「ガチャ」
















一呼吸程の間を置いた後、
明彦はドアを押し戻し須藤を中に引き入れた。









明彦
「変な事しないでくれよ」




須藤
「疑り深い坊やだ」








明彦は須藤をリビングへ導き、
対面する形でソファーへと座らせた







須藤
「御邪魔するよ」




明彦
「今朝のあれ」




須藤
「ああ」




明彦
「偶然かよ、確か変な事件もあそこであったって聞いたし」




須藤
「理由は二つ挙げられる」




明彦
「?」








明彦がキョトンとした様子を見せてると
須藤は胸ポケットから先程の手帳を取り出し、机に投げ捨てた








明彦
「これ警察手帳じゃんかっ」




須藤
「ま、そういう事だ」




明彦
「探偵って嘘かよ、じゃあっ」




須藤
「似た様なもんさ。素性を偽り、機密を保持して、
迷宮入りになってる事件を関連性から追求する」



明彦
「事件って…」




須藤
「今朝の現場でだよ。君と会った後、
捜査を続行する予定でね」




明彦
「だから…」








明彦が納得しようとしたその時、
須藤はテーブルに投げ捨てた警察手帳を手に持つと
パラパラと開いたページを読み上げ始めた







須藤
「中島明彦、15歳。A型
電脳文化部所属、趣味は機械イジり、
母は某大手企業デザイナー、
父は国立大学の助教授。」




明彦
「な…」







明彦は一層驚いた様子で手帳を読み上げる須藤の方を見た







須藤
「先に面談ぐらいしておきたくてね」








須藤は目を上げると手帳を明彦の方に向け
今開いていたページを見せた








明彦
「あー!俺の写真」









そこにはプリントアウトされた明彦の顔写真と
個人情報が記載されていた








須藤
「だから似た様なもんだって言ったろう」




明彦
「なんで俺の…」










明彦が呆気に取られていると須藤が口を開いた





須藤
「そろそろこっちの番だ、
明彦君」



明彦
「…」



須藤
「自宅の郵便ポストに小包が入ってた筈だ」



明彦
「それもだよ、なんであのCDの事まで知ってんだよ」




須藤
「俺が送ったからさ」




須藤のその一言に明彦は形相を一転して須藤の方を見つめ直した




明彦
「あんた…あの中身知ってんだろ?」




須藤
「ああ、お子様の君には危険過ぎる内容だ」





「ガバッ」






須藤はソファーから逃げようとする明彦の手首を柔らかく包む様に握ると
胸の方へ引きずり込んだ




明彦
「っく!?…なんだよっやっぱあいつらの仲間じゃねーかよ!」




須藤
「落ち着いてくれ、説明する手間が長くなる」





須藤はか細い腕を壊さない様に明彦の手首を掴みつつ、
興奮する彼を宥めるがその動きは一層激しさを増した





明彦
「さっきの手帳も偽物だろ!
大体CDなんてもう持ってねーよ!」








明彦の言葉を聞くなり須藤の顔色が一変した







須藤
「何だって!?」






「バタンっ!」





明彦
「痛っ!」










須藤が手を離した瞬間、
明彦の身体は反動でドアの方へと激しく叩き付けられた









須藤
「…どこにやった、あれを」




明彦
「うるせーな、元々お前等が生産してるもんなんだろ!」




須藤
「誤解だ。それに俺は君が見た映像に写ってた奴等の追跡捜査をしてる」








須藤の危機迫る眼差しに明彦は正気を取り戻し、
床に転がった身を起こして話を続けた








明彦
「じゃあ、なんでアンタが俺ん家に直接送るなんて事するんだよ」



須藤
「…交換条件だ」



明彦
「へ?」








間の抜けた態度を見せる明彦に理解させる為
須藤は説明を続ける







須藤
「届いたデータの行き先を教えてほしい、
そうすれば成り行きで厄介被せたお詫びに事情を説明してやる。
ただし口は絶対割るな」





須藤の重々しい口調に明彦は口をきっと結びここぞとばかりに話を切り出した





明彦
「じゃあ俺からもお願いがあるよ」



須藤
「なんだ?」



明彦
「届けた先を知っても絶対その関係者に危害加えたり、
警察の権限にかける様な事しないでくれよ」




須藤
「状況にもよるが…」




明彦
「約束出来ないなら話せない。大切な友達なんだ」




須藤
「立場が解ってるのか?君自身、そして何より
大切なその友人にとっても危険なんだぞこの一件は」




明彦
「元はといえばアンタが原因だし、
そんな危なっかしいもん俺ん家に届けたって警察が知ったら
職場でどんな処置とられんだろーねー♪」







明彦の押しの一手に答えを失った須藤は
大きな溜息を一つついて明彦に返事した






須藤
「解ったよ、参った。降参だ。」




明彦
「よしっ」




須藤
「ただし、警察を交えた騒動を起こさない事、
直接の危害を加えない事は約束するが、
俺一人で捜査を続ける事は勘弁してくれ」




明彦
「…」




須藤
「一応、こっちも仕事なんでね。」




明彦
「解った」




須藤
「よし」




明彦
「じゃあ、教えてよ。
なんで、あんたが今朝会う前の俺を知ってたのか、
なんであんなもの送りつけたのか」








須藤
「あれは君に発送するというより、
俺が誤配達を見せかけ物証の入手を試みた結果実行したもんだ」




明彦
「どうやって送れたの?そこって敵陣でしょ言うならば」




須藤
「潜入したのさ、奴等の事務所にね」




明彦
「それって…」




須藤
「そう、ピエロだ」




明彦
「・・」




須藤
「君に配達されたCDROMは知っての通り、
奴等の犯行の一部始終が記録された
危険極まりないデータが収録されてる筈」




明彦
「って、見てないの?」




須藤
「それが出来ればわざわざこんな事するもんか。
内部のコンピュータールームに潜入し、
データ発送先のメールアドレスを書き換えた後、
それを実行した」




明彦
「って、なんて事してくれんだよ
俺の記録残ってたらあぶねーじゃんか!」




須藤
「安心しろ、書き換えたアドレスは、
データ発送後、完全に自動消滅する様に設定しておいた。
添削データからの検索も不可能で証拠隠滅処理済みだ」




明彦
「そう…」




須藤
「念の為、封筒に記載されるアドレスも
一字誤って表記される形でデータを設定しておいた。」




明彦
「あ、だから」




須藤
「その後、全国住所データの入った情報課のモバイルを利用し、
君の素性と家庭環境をリサーチ。

両親共働きで君が学生なら午前中は自宅が空いてると読み
その時間に届く様にしたんだが…」




明彦
「(勝手な事しやがって(^^;))
…で、俺ん家に来た訳?」




須藤
「そう」




明彦
「でも、入り込めたならCDなんか盗んでくりゃいいじゃん」




須藤
「在庫データはシステムルームとは別の倉庫で管理されてる。
屈強な見張りと重厚なシステムの包囲網によって厳重にね。

そんな場所に忍び込むより、こうしたルートを開き
手元に導いた方が確実だと思った結果の行動だ」




明彦
「けど」




須藤
「あいにくと、現実は何が起こるか解らん」




明彦
「ご愁傷様」







明彦の皮肉めいた締めの後、
須藤は話しの続きを目で要求した






















明彦
「無いよ、本当に。あんたに渡したくないんじゃない。
ある人に渡した」




須藤
「誰だ?早急に回収しないと危険だ」




明彦
「最後にもう一度聞くけど、本当に危害加えないって約束してくれる?」




須藤
「解ってる。それにこれでも警察の端くれ、
そう簡単に暴行等犯せんよ」




明彦
「解った…」




須藤
「…」


Last Update : 2004/10/11