トリックピエロ

 

駆け引き






<炎陽町>

ここは明彦の住む炎陽中学の近く。
捜査を終えた須藤が車を運転して、
ある場所へと道を急いでいた


須藤
(ここら辺の筈)



赤信号を待つその間、
時計盤をジッと見つめる須藤の表情は
いつにも増して緊張感に溢れている





須藤
(それにしても…)





須藤は捜査の一部始終を回想しながらアクセルを踏み込んだ。





須藤
「変わった奴だ」






<明彦の部屋>

ここは明彦の部屋。
正太郎に問題のCDROMを引き取ってもらい安心しきった明彦は
カーペットに倒れこんだまま眠りについてしまっていた。



「ピリリリ…ピリリリリ…」




その時、携帯のメール着信の音が部屋に鳴り響き、
明彦は目を覚ます。



明彦
「ん…んー…」





明彦は寝ぼけ眼で携帯を手にしメールを着信した。





「初めまして、突然で悪いが届いたものを私に返してほしい」





明彦
「っ!?」





明彦はその瞬間、携帯を片手に息をを飲んだまま凍りついた




明彦
(間違い、だよなあ…)




明彦は心の中で自分に言い聞かせる様にして携帯の受信をオフにすると
ベッドの上に投げ捨てた





「ピリリリ…」




明彦
「っ!?」




まるで言い聞かせる様なタイミングで再度鳴り響いた着信音に驚いた明彦は
一瞬背筋を叩かれた様にピンと張り恐る恐る携帯の着信を再度オンにした







「それは君が持ってたらいけない」







明彦
「誰だってんだ 畜生…」



明彦は携帯のボタンを震えた指先でイジり発信先を確認しようとしたが
発信先の番号が特定出来ず、余計苛立ちと恐怖を隠せなかった





明彦
(悪戯…偶然…まるで知ってる様に、なんなんだよ一体)





明彦は不安を隠しきれない様子で電話の着信窓を見つめながら
頭の中で自問自答を続けた





















「ピンポーン」





















明彦
「ヒッ!」





まるで脅えた子猫が目の前にかざされた手の平を避けるが如く明彦は
チャイムの音に身を仰け反らせた










・・・









「ピンポーン」





















明彦
「…」




繰り返されるチャイムの音を避けながら、
明彦は息を殺しながら窓際に擦り寄り
カーテンの隙間から玄関に見える人影を窺った



そこには肩幅の広い逞しい老人の人影、
そしてその風貌は小気味悪い明彦の記憶回路に拍車をかけ始めた




明彦
「…あのオッサン、今朝の?」














「ピリリリ…」










明彦は3度目の着信を前にし、
今度は脅えるというより
気がかりな様子で着信を拾った











「今、部屋の窓の隙間から君が見えた。
ドアを開けてくれないか」





明彦
(開けろったって…こんな物騒な時に、
それにアンタもしかしたら・・)






明彦は荒い息遣いによってカサカサになった唇を舌なめずりすると
頭を掻き毟りながら状況の整理を始め、
目の前の相手から届いたメールに返信を行った





明彦メール本文
「貴方は一体誰ですか、
何の目的で僕の自宅に来たんですか?
僕に危害を加えない事を約束してくれますか?」













返信本文
「俺は探偵だ、雇われのね。
危害は加えない、約束する。

そうだ、目的は直接説明させてくれ、
手短にね。」











明彦
(探偵…って おい、本物かよ)




眉を顰める明彦の表情を汲み取ったのか
一回に見える彼はポケットから手帳を取り出し
スケジュール帳に何かを描いている










明彦
(なんだよ、気持ちわりーな…何やってんだ?)














明彦が不安な表情でその様子を見つめていると、
彼が手帳に描かれた絵を高々と掲げる様子が見てとれた





















明彦
「ピエロだ」










須藤
「ふう…」

Last Update : 2004/10/02