トリックピエロ

 

交雷






<アリアン統合クリニック応接室>

ここは、アリアン統合クリニックの特設応接室。
犯罪組織ピエロの運営中に元仕事仲間「マリー(大嶺 元精神科医)」からの連絡を受けた秀明は、
クリスタル調の長テーブルの前に置かれたソファーに座り
携帯に向かってピエロの事務処理担当者と情報を交わしていた





秀明
「それで…結局、
手配ミスでサンプルの郵送先を誤ったと」



管理責任者
「本当に申し訳ありません・・」



秀明
「IDと住所一覧の設定は担当SEがきちんとしてある筈だろう」



管理責任者
「はい、照合段階に入力の一部で担当のミスがあった様でして・・・」



秀明
「フー…アナログに任せると、
どうしてこうも下らないトラブルが起きるものか」



管理責任者
「・・・・・・」





秀明は不快な溜息を上げつつも、
冷静な様子で電話の向こうの相手に話しを続けた





秀明
「理由は解った。
誤った住所に届けたサンプルを、
逆探知して即回収する様に」



管理責任者
「、、、入力段階の住所情報がミスによるものだったので
一覧のリストにも無く…」



秀明
「不快だ」













管理責任者
「申し訳ありません・・・」



秀明
「担当者が解り次第私に伝えたまえ」



管理責任者
「それが…」



秀明
「なんなんだ一体!」




落ち着いた様子の秀明の表情は一変し、
正に鬼の様な形相で電話口に向かい声を荒げた





管理責任者
「…」





その声に圧倒されたのか担当者は息を飲み黙ってしまう






秀明
「失礼・・・話しを続けたまえ。」



管理責任者
「この住所情報を入力した担当者と、
入力時刻の履歴がデータベースに一切残っていません」



秀明
「・・・事務所内に置かれた全ての機材の
ログイン・オフ時間とセキュリティシステムを見直せ」



管理責任者
「はい…」



秀明
「い・ま・す・ぐ・に・だ」



管理責任者
「解りました、失礼します」



「プツッ」





電話口の向こうで通信が途切れる音がすると
秀明はしばし会話の余韻にひたる様に
その電子音を聞いたまま物思いに耽り始めた







秀明
(…どういう事なんだ、どういう。一体、どういう。事なんだ。
何故思う通りに動かない、感じない、意味を持たない・・・
まったく、どういう。一体、これは事なんだ。

何故下らない事が起きるんだ・・・
完璧な程当たり前の事は私にとっては無い。
それが当たり前で不完全たるもの程完璧では無い事は無いというのに…)





秀明はしばしうつむきながら、
空いた方の手で膝をポカポカと叩き続けた。

そうして、しばらくすると戸がノックされる音と共に
看護婦の高らかな声が部屋に鳴り響いた





看護婦
「秀明院長、お客様がお見えになりました」



秀明
「通したまえ」




先程の様子とはうって変わって、
秀明はいつもの落ち着いた調子で返事をした




「ガチャ」





マリー
「やあ」



秀明
「お久しぶり。大嶺先生」



マリー
「待たせて悪かったね」



秀明
「安心したまえよ、
時間や言葉遣いを気にして君と会いはしないさ」



マリー
「そりゃどうも」



秀明
「さて、今日は何の用でこちらに?」





秀明はじらされた様子で
マリーに早々の返答を求めた。





マリー
「あたしね、今、警察に居るんだ。」



秀明
「…」



マリー
「それで、ある犯罪の捜査に関わってね、
事件の心理捜査官として仕事してる」



秀明
「成る程、中々にユニークな職に就かれた様で」



マリー
「これが割と地味な仕事多くてね、
結構汚れた事もしなきゃいけないんだよ(笑」





マリーがそう言うと
秀明は相手の出方を伺う様に話しを続けた。





秀明
「閑話休題。こちらも多忙な身でね、
出来れば用件を早急に伺いたいのだが」




マリー
「秀明さん、人体学に精通してる貴方に少し聞きたい事があってね」



秀明
「どうぞ」



マリー
「まずこれ、見てもらいたいんだ」





マリーはそういうと、
ジャケットの内ポケットから眼球の入った瓶を取り出した。





秀明
「っ?」





秀明は戸惑った様子でその瓶の中身を覗く

Last Update : 2004/09/21