トリックピエロ

 

ゴーストライター















<明彦の部屋>


ここは明彦の自宅部屋。

自宅に届いたCDROMに収録された映像の真意を探るべく、
明彦はオカルト誌『月夜』のライターであり、
友人の「中野正太郎」を自宅に呼びつけ
先程見た映像を確認させていた。


(VTR)
「ア゛ァ゛アアア゛ァ゛…!」





正太郎
「……」





椅子に座った正太郎は、目の前のモニターに写る
凄惨な殺傷行為の数々をジィっと見つめている。

明彦は正太郎に譲り渡した椅子の後ろに立ち、
おずおずとモニターの中を覗き込んでいた





明彦
「どう、正(しょう)ちゃん?」



明彦は気慣れた様子でモニターに食い入る正太郎にそう声をかけた

すると正太郎はモニターを見つめたまま、
後ろに立つ明彦に問いただした




正太郎
「単刀直入に?」





明彦
「うん…」



正太郎
「これ、作りもんじゃないねー。多分…」






















『本名』
中野正太郎

現代に発生した猟奇殺人や身元の取れない連続殺人・失踪事件等、
現代文化に裏付けられたアンダーグラウンドシーンを
徹底してフューチャーするオカルト誌「月夜」の編集員にして明彦の友人。

現在はライター駆け出しの身。

東京都は新宿区の安借家を根城に残業と金欠苦にメゲず
日々ネタ探しの巡業活動から書類整理まで精を出す逞しい貧乏人。

将来は自ら構想したエンターテイメント情報誌編集長の座に着き、
取材の為、毎日経費で遊び人をし続けたいという
何とも不毛な夢を密かに抱いている。


明彦との付き合いは1年前に彼が炎陽中学に
語学の一日講師に行った時に生徒として
知り合ったのがキッカケ。

講義の内容に関心を示した明彦と個人的な付き合いを始め、
一日講師終了後も明彦とメールでやり取りをしては
直接会って、現在仕事をしている本の紹介や
学校では学べない現代社会の裏文化論等を明彦に吹き込んでいる。

一人っ子の明彦にとっては物知りな楽しいお兄さんという印象の元、
また、平社員の正太郎にとっても
明彦は「自分の伝えたい事を素直に伝えられる可愛い弟」
という様な双方の好印象を軸に繋がっている。














若干の予想はしていたものの、
明彦は現実感を狂わす正太郎の返答に息を飲んだ




明彦
「マジで…?」




眉間に皺を寄せ苦々しい表情でそう返した後、
明彦に向かい正太郎は更に続ける





正太郎
「僕も仕事でこういう系統のノンフィクションビデオとかよく見るけど、
大体、ニュースで放映されたヤツとか、
犯罪実録でも特殊メイクとか仕込みって
すぐバレる様なヤツばっかなんだ。」





明彦は訝しげな様子を表情に曇らせつつ正太郎に更に話しを聞いた





明彦
「違いってどこで解るのさ?」





正太郎は少しイヤラシイ含み笑いをしつつ明彦にこう返した






正太郎
「そんな簡単に死なねーよっていうヤツ(笑)」



明彦
「うん」



正太郎
「刺されたらすぐ倒れちゃって、
血ノリだけブワァーって広がるとか。

首筋にナイフ立ててちょっと切ったところで
映像編集で実物ソックリの人形にすり変えて
悲鳴と共にゴリゴリ人形の首切り落とすとか」



明彦
「そんなんあるんだー…」





明彦は恐怖心とはまた別な様子で
正太郎の説明を感心しきりに聞き始めた





正太郎
「割と丈夫なんだよ、
人の身体って。こういう風にさ…」




正太郎は冷静な口ぶりでそう言うと、
モニターの映像を一時停止して
苦悶を浮かべる少年の顔をトントンと指差してみせた。





明彦
「?」




明彦は不快な顔を浮かべ、
意味が解らないといった表情を正太郎に訴えかけている




正太郎
「苦しそうだろ?」




明彦
「う、…うん」




正太郎
「人間本当にキツくなるとね、
心拍数がヤバくなるんだ。」



明彦
「…」





明彦は正太郎の話しを黙って聞いている






正太郎
「うろ覚えだけど、
確か、正常な人間の心搏数を振り切ると、
呼吸が合わずに声帯が機能障害起こして声色が変になったり、
毛穴から漫画みたいな量の脂汗がドーって噴出してくるんだ。」






明彦は戸惑った様子で正太郎の口から流れだす
難解な言葉の波を整理していた






明彦
「えー…っと」



正太郎
「つまりさ…」





正太郎は困惑する明彦への説明法を和らげようと
一時停止された目の前の映像を再生し、説明を続けた





(VTR)
「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁぁぁ…はー…」





正太郎
「こんな声色、真似したって
ハリウッドでも容易に作れないって事さ」

Last Update : 2004/08/27