トリックピエロ

 

DM






























ここは炎陽中学から10分程歩いた先にある閑静な住宅街。
明彦は赤く腫上った背中の打身をさすりながら
鮮やかな青い屋根が印象的な自宅門の前に立っていた。

その先には彼の身長より頭一つ分程高い扉があり、
その奥に明彦の住む我が家がある。





明彦
「…さっさとメールチェックしないとな。
返信分ただよってるし…」





明彦は趣味で、
世界各国のニュースサイトから情報の検索をかけ
そこから彼の感性にあった珍事件をピックアップし
回覧者に情報を提供するホームページの運営を行っている。

また、多くのマニアがそのサイトを愛用しており、
日頃から感想メール・情報提供メールが途絶えない程の人気サイトであるが故、
趣味で始めた手前、回覧者への対応に四苦八苦してる現状が続いているのだ。





明彦
「…てと、ポストに郵便物は…」





明彦はダイヤルロック式の黄色いポストを手馴れた様子で開け中を覗くと、
中から赤と青のチェック模様が入った自分宛の封筒を取り出した。





明彦
「うーん、またDM(ダイレクトメール)かぁ…?」





明彦は呆れた様子でチェック模様の封筒をプラプラ振ってみた





「カタ…カタ…」





明彦
「ん…?」





中から響いたプラスチックのブツかり合う様な
角質的な音に気付いた彼は、封筒を拳で軽く叩いてみた





「コンコン…」





明彦
「なんか入ってるなこれ、
叩いた感じからすると…」




明彦は身に覚えのある感触を察知すると、
封筒の口を指で横切りにし中を覗いてみた





「ビリッ!」





明彦
「あー、CDじゃん、ちょっと得かも♪」





明彦は身に覚えの無い封筒の中に同梱されていた
CDを棚からボタ餅といった収穫の様子で喜んでみせる。



明彦
「そんじゃ、とりあえず部屋に持ってって…と」




明彦は開いた封筒を手持ちの学生鞄に放り込むと
自宅前の門を開き鍵を使って中へと入っていった。





「ガチャッ…ギィ…」





明彦
「ただいまー…と。
って、誰も居ないか(^^;」





明彦は靴の少ない広いスペースの玄関で
家の状況を見渡してから、そう独り言を呟いてみせた。

彼の家の家族構成は、父が大学講師、
母は企業の専属デザイナーと共働きの家庭環境下にいる為
平日、母の帰宅時間である午後7〜8時までは
基本的に帰宅の早い彼一人で在住している事になるのだ。





明彦
「さて…と、部屋戻って早速こいつの中身確認してみるか」





明彦はそういうと先程開いた封筒の入ってる学生鞄を二、三度叩いてみた。





「タッタッタッタッタッ…」





フローリングで構築された階段を上り
明彦は自室へと足を早める。




「ガチャッ」





明彦は自室の扉を開けると部屋を軽く見渡し、
パソコンの位置を確認した。

部屋の広さは10畳半程。
青いカーペットで床が敷き詰められた彼の部屋は
一人部屋にしてはかなり余裕があり
また食料を保存しておく為の小型冷蔵庫も用意されている。

そして天井の高さを象徴する様な大型のラックの中には
日頃彼が愛用しているPCソフトやアニメ〜邦画〜洋画のDVDタイトルがあり、
彼の趣味範囲の広さが伺える。





明彦
「んじゃ、さっきの封筒を…」





明彦は学生鞄を探り先程の封筒を取り出すと
梱包されていた無印のCDケースを封筒から出し
蓋を開け中のCDを確認した。





明彦
「なんだこれ?気持ちわりぃ絵だなぁ…」





明彦が目にしたCD表面には
肉眼の拡大図とアンティークの置物らしき
デザインが施されていた。

その上にはタイトル文字で
「SAMPLE CD」と表記されている。




明彦
「SAMPLEって書かれてるし、
まあ、試供品みたいだから中覗くだけなら…
一応ウイルス対策に古い方のマシンで起動してみるか。」





明彦はそう察するとメインの最新機種のパソコンの隣に置かれた
旧式のサブマシンを起動した。





明彦
「よーし、そんじゃCDセットして…」





明彦はPCが起動したのを確認するとCDドライブのイジェクトボタンを押し、
封筒に同梱されていたCD-ROMをセットした。



すると、画面端からピエロの格好をしたアイコンが現れ
CD内のデータをメニュー表示すると甲高い声で解説を始めた






ピエロのアイコン
「はーい(^^)PIEROの皆様ご機嫌麗しゅう♪

今日もとっくべつ刺激的なハイクオリティムービー
をサンプルでお届けに上がったよ♪

「やらせ」「合成」一切無しのリアリズム♪
息絶え絶えの躍動感をお楽しみあれ♪」




明彦
「なんか凝ってるね…」





明彦がそう思う内に、PCモニタは一瞬真っ暗になり、
次の瞬間CDの中のムービーファイルがフルスクリーン一杯に表示された。





明彦
「ムービーか…サンプルCDでこういうの入ってるの珍しい」





明彦はそうボヤくとモニタの中で展開される
工場の中らしき殺風景な景色の映像を眺めていた。

そしてその映像はフェードインしてくる金属質なBGMを演出に
目元にアイマスクを被され、
四股に短刀の突き刺さった少年へとシーンが切り替わっていった。



明彦
「…!?」





少年
「はぁ…はぁ…ぁあ…ひいぃぃ…ぃ(泣」




太く伸びのある声
「もう、少し声出さないね。
時間…もたない…でしょ。」





「サクッ」

(少年の膝に声の太い男がナイフを突き刺す)



少年
「ああ゛ぁ゛゛ぁ゛゛!(泣)」





少年の膝にナイフが深くつきささると画面が引きになり、
彼にナイフを突き刺した筋肉質な色黒の男がアップになった。





筋肉質な男
「ジャッキーさん、お願い」




すると、バックから響く撫でる様な声が響く



ジャッキー
「はいはい…」




少年はマスクを付けられた状態で
息を押し殺す様にして自分の体を抱きかかえる。





少年
「ヒュー…ヒュー…ヒュー…」






ジャッキーと呼ばれた細身の男は比較的小型のナイフを片手に
うずくまる少年の下へと足を進めていく





明彦
「…おい、なんだよこれ…?」




「カツッ…カツッ…カツッ…カツッ」





細身の男はナイフを手に少年のアマスクをめくり
顔にシワを思いっきり寄せて少年の目元にナイフを近づけていった



明彦
「うわあっ!!!」



瞬間、明彦は堪らずCDドライブのイジェクトボタンを押した




「ウィーン…」

(ドライブが開く)





明彦
「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」







彼のコメカミから滴る脂汗が
開封した封筒の宛名にポツポツと流れ落ち
赤のインクを滲ませていた。

Last Update : 2004/05/13