トリックピエロ

 

ゴッドファーザー

授業を早退した明彦は事件現場の公園を避ける形で
近所の商店街を通り帰宅路についていた。





明彦
「…不可抗力とはいえ早退した事だし、
帰ったらネットでも触るかな。

もうしばらくメールチェックしてないし」






彼は早退して浮いた時間の使い道を頭の中で模索しながら、
ボーっとした目つきで家に向かい歩く。





スキンヘッドの少年
「ピーエロちゃん♪」




明彦
「ぁ゛っ」





その声を聞いた明彦は一瞬にして凍りつき、
同じ学生服を着るスキンヘッドの少年の方に目を向けた






「ドガッ!」






明彦
「ぁ゛ぐっ…」






明彦がその少年に目を合わせた瞬間、
少年のパンチが明彦の鼻目掛けて飛び込み
明彦はその一撃を食らい前のめりに倒れ込んだ。





スキンヘッドの少年
「気軽に目合わせるんじゃねぇってんだろ(失笑)」




明彦
「ごめ…なさい」





彼は、強く殴られて一層赤くなった鼻を苦渋の表情で押さえると、
目の前の現状を見据え、
今日の「早退」と「帰路」を誤った事を強く後悔していた。

ここは、炎陽中きっての不良3人組が
サボりに通いつめるゲームセンター
『ベティーズ』の店出口だ。

彼は、今にも吐きそうな気分をグッとこらえ
少年から外した視線を店の奥へと向けると、
更に辛い現実に気付いた





中尾
「カズゥ…金ねんだぁ…
パンチングマシーンょぉ、やりてぇの」





























彼の名前は『中尾雄平』


身長187cm 体重85キロの巨漢に、
剃りこみの入った赤毛の角刈り。
気だるそうな切れ長の目は見るだけで圧倒され、
一度見たら忘れる事は無い威圧感がある。


窃盗・傷害・少年院行き等、フダ付きの不良が揃う炎陽中において
誰も手を出さないタブー的存在であり
明彦が同級生の中でもっとも苦手とする不良3人組の親玉である。
現在目の前に居るのは
その内の一人「西 和己」だ






























和己
「あっ、中尾さん貯金箱来ましたよぉ」





雄平に呼び付けられた和己は、
せびられたゲーム代の代役として明彦を駆りだした





明彦
「あの…今、財布持ってないんだ俺」





通学に財布を持たない明彦は真実を語るしか無かったが、それで通る相手では無い事にすぐさま気付かされる。





和己
「学習能力ねえなぁお前…」





酷く不快な表情で西がそう言うと
中尾は眉をピクりと動かしてからボソりと呟いた




中尾
「お前体重いくつ?」




明彦
「5、50キロちょい…」




中尾
「んじゃゲーム代り頬殴らせてな、
マシンで100キロ出てりゃお前ぶっ飛ぶだろ」



和己
「ほんじゃっ♪(がしっ)」






和己はその言葉を耳にすると、明彦の両脇を腕で固定し
身動き取れない体制にして雄平の拳を待った



明彦
「ちょっ…グローブつけねぇとヤバいっ…」






固定された自分の身体と目の前の巨体に脅え、
明彦は足だけジタバタしている




中尾
「気失ったら忘れてるよぉ(笑)」





雄平はそういうと太い腰を捻り、
拳を突き出す準備段階に入った






コート服の中年男性
「おぉい、馬鹿。何やってんだ?」




中尾
「あぁっ…?」




西
「やばっ…」



明彦
(助かった)



明彦は目の前から駆けつけにきた制服警官と、
コートを着た中年男性の姿を雄平の背後に確認すると
安堵の溜息をついた。






「ゴキッ!」







中尾
「っが…!?」





自分より二周り程も小さい中年男性の膝蹴りを腹部に埋められた
雄平は思わずその場に崩れ落ちた。





西
「うわっ…」





苦悶の表情を浮かべる中尾の失態を目の前に、
西は体裁上目を背けた。





コート服の中年男性
「朝っぱらからテメーんとこの事件でゴタゴタあるしよ…ったく、
毎回毎回、世話ぁ焼かせやがって。」




中尾
「っせーな…ズラ・・。さっさと死にやがれ」




明彦
(ひぇぇ…)





中尾は蹴られた腹を押さえつつ息の荒い憎まれ口を叩い瞬間、
逆燐に触れた彼の肘が彼の鼻目掛けて飛んできた。





「ゴシュッ!」





中尾
「っぅっく…」




制服警官
「あの、もうその程度に…」



あまりに暴力的なやり取りを見るに見かねた
若い制服警官の一人が思わず口を挟んだ



コートの中年警官
「ったく馬鹿息子が…」

























本名
「中尾道成」


雄平の父であり、神奈川県警の少年課に務める現役刑事。
また本署で『空手・柔道等、武術指導員』にもあたる県警きっての武道派。
その腕っぷしはプライベートでキックボクシングを行い
世界ランキング上位に食い込む程の達者ぶり。

また、ある事件を機に妻を亡くしてしまい、
死亡時まだ幼いかった雄平を男手一つで育て上げた(?)のが彼である。


ついでに言ってしまえば、雄平に武力を与えた元凶も彼であり、
その結果、息子が起こす数々のトラブルで面倒を見る始末になった挙句、
担当地区で悪さを続ける我が子を保護観察の管理下に
置く様になってしまった事で親+刑事としての責任を感じている。

また、トラブルの現場には大抵、明彦が居て
その都度、雄平が場を取り繕った言い方をする為
道成にとって明彦は容姿の悪い他の二人組より
良き息子の「友達」という様な認識で見られている。




























雄平
「サボッてねーでさっさと仕事戻りやがれ…」




道成
「俺も子守に時間割きたかぁねんだけどなぁ…」





明彦は二人のやり取りの隙間をぬって、
雄平の方に目を合わさぬ様、救世主である父に声をかけた





明彦
「あの…」




道成
「おおっなんだいボクちゃん?」




明彦
「俺…今日はちょっと具合悪くて早く家帰りたいんで
失礼してもいいですか?」



道成
「あー、具合わりぃのにバカ息子の相手してもらって
すまんなぁ…」




明彦
「ハハハ…
(頼まれても居たくない場所なんだけど(^^;))




雄平
「さっさと帰れバカ…」




和己
「あっテメー逃げる気…!」





「ガゴォ!」





和己
「うっ…!」






明彦に食いかかろうとした和己の顎に道成のフックが入った。






明彦
「ひゃっ…」




道成
「ほんじゃ、また、こいつの事よろしくな!」




道成は引いた拳を開き手の平を差し向けると
明彦に強引に握手を求めさせた。






「ムギュゥッ!」






明彦
「ア痛タタタッ…!」




道成
「もちっと身体鍛えような彦くん(笑)」





道成はそう言って豪快に笑うと
手を離し背中を叩き送った。

明彦は手を離されると平手の衝撃力に乗る様に
家の方角へ走り去っていった。









明彦
「畜生…今朝ブツけたとこ思いっきりハタキやがって(泣)」






Last Update : 2004/03/31