トリックピエロ

 

ティーチャー


八重
「何しに来たんですかー・・・も〜…ここ学校ですよ?」



マリー
「あたしゃアンタの恩師だろうに。」



八重
「ん・・うぅ…」




































一頃前、医者として有能なマリーは、
精神神経課の担当医として患者の検診に当る他、
病院側の広報活動の一環として教育施設他、
若い研修医への講義・育成役も一任されていた。
八重はこの頃、専門学校の看護科でマリー(大嶺医師)
の下につき学んでいた生徒の一人にあたる。

介護施設に入り、
高齢患者や精神疾患の症状を持つ患者の実技看護に
四苦八苦する八重に的確な指示を与え、
校内で明確な講義を聞かせたのもまたマリーであり、
彼の尽力無ければ、八重の現在も定かでは無かったといえる。

ちなみに、マリーは上下関係のメザとさ、
出世争いの醜さに呆れ返り、
医師の世界に退屈していた時、
ある知人の刑事から精神科医としてその推理能力を大きく買われ
立設間もない心理捜査科へのスカウトされた事を機に、
医者から足を洗い、刑事に転職する事を決断した。































マリー
「まあ、ガタガタ言ってないでそこ座りな」



八重
(はぁ…ったく。帰り際ブティックでも寄ろうと思ってたのに…)





八重は嫌々ながらも生徒時代の頃からの関係性に漂う
逆らえない空気を感じ取り、目の前のソファーにドッカリと腰をかけた。





八重
「で…なんの用なんですか?こんな堅気の職場に足運んで?」



マリー
「つくづく無粋な言葉使う子だねコイツは。

近所で若い男の子がバラされたって事件、
あんたもココの教師なんだからもう耳に入ってるだろ?」





マリーの言葉を耳にするなり八重は口元をキッと結び、
鋭い目付きになりながら下を向いた





八重
「えぇ…伊勢君ですね。本当に家族の方はお気の毒としか」



マリー
「それでね、見てほしいものがあるんだけど…」



八重
「はい…。どうぞ」





八重の返事を聞くとマリーはジャケットの内ポケットから小瓶を取り出した。





マリー
「これ。伊勢君の目玉」





その瓶の中身を見ると八重は唖然とした表情で
腰が抜ける様にソファーからズリっと体を滑らせた。






八重
「なっ…これ」



マリー
「場所も場所だから長くは出せないんだけど」






八重は少し涙目になりながら、
マリーに驚愕の具合を訴えかけた







八重
「勘弁してよ大嶺さん…」



マリー
「別にビビらせる為に出したんじゃないんだけどねぇ…
ただ見てもらいたいんだよ、ここ」





マリーはそういうと小瓶の中の眼球を指差した





八重
「は…?」



マリー
「あんた人体学のレポート出したんだから
分断化された目玉の構造ぐらい覚えてるだろ。」





小ばかにした様なマリーの口ききに、
八重はムッとした表情で言い返す。





八重
「そんな事言っても…中々直視出来るものでも…
……?」






八重はマリーに受け答えしながら
瓶の中の眼球について何かに気付いた







八重
「これ…臨床用のですか?」



マリー
「まあ、そういう風に見えるだろうね…」





マリーはそういうと机の上に置いた小瓶をスッと懐にしまい込んだ。







八重
「あっ…」



マリー
「いや、まあ、それだけ聞きに来たんだ。
悪かったね、職場押し寄せて」



八重
「はい。まったく」





息もつかせぬ即答にマリーは呆気にとられ、
溜息交じりにうなだれた。





マリー
「ったく、ホントに恩知らずな生徒だよ…」





マリーの反応を見た八重は、
悪戯っぽく微笑みながら軽いフォローをした







八重
「フフ、冗談ですよ。お仕事頑張って下さいね。
今度お食事でも行きましょう」





マリー
「それより早く良い男見つけな」





八重
「っく…(^^;」







マリーは八重に捨て台詞を一つ残すと、待合室の戸を閉め、
校門前に駐車してある透の車の元へと乗り込んだ。






「どうだいマリー?」



マリー
「あぁ…優秀な教え子に確証もらってね」





二人のやり取りを後部座席に座る健太郎の母「美智子」が
不安そうに見守っている。





美智子
「あの…」



マリー
「他殺の線が固まったんで、立証取る為にこれからアタシ達
専門機関への調査依頼取って捜査続行しようと思います。」



美智子
「はい…」




「で、少しゴタつくと思いますんで、
今回は僕達が家までお送りしますね。」



マリー
「事故んじゃないよ」





ビジネスライクにキメた透を
マリーが嘲笑うかの様に茶化してみせた






「っさいなぁもう…(ーー;」




美智子
「解りました。よろしくお願いします」





美智子の返事が車内に響いた直後、
透は鍵穴に差し込んだキーを捻りエンジン音を轟かす。

マリーはその発車準備の間、
次の目的地を頭に思い浮かべていた。






マリー
(さて…と、せっかくだからもう一つ尋ねてみようか…)

Last Update : 2004/03/06