トリックピエロ

 

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<炎陽中学保健室>



ここは炎陽中学保健室。
部屋中央のテーブルの側面で向き合う形になる
八重と明彦が居た。





明彦
「それじゃあ、そろそろ…」



八重
「っても、もう昼だしねえ…試験終わってるんじゃない?」





八重の返し台詞にテストの事を思い出した明彦は、
一瞬固まった後、血の気の引いた顔色でこう叫んだ






明彦
「いけねっ!?」





八重は慌てふためく明彦の様子を
あっけらかんとした顔で笑い飛ばした





八重
「あっはっはっ!まあ いいじゃない秀才君(笑)
模試一つで落第する様な成績表じゃないでしょ」





八重の言葉通り、明彦は炎陽中きっての優秀生徒であり、
また、何より成績表の出来がそれを如実に物語っていた。

一人息子という家族構成から、
親の期待を疎ましく感じながらも
責任感を背負っている感覚を持つ彼にとっては
すでに「進学」という現実問題が心に重く圧し掛かっているのだ。





明彦
「たく…冗談じゃないよ、気付いてるなら
教えてくれよなぁ・・・それでも教師か?」



八重
「アタシはアクマで保険担当。
生徒のスケジュールまで管理してらんないもん(笑)」





八重の軽いノリに空虚さを感じ取った明彦は、
半ば諦めた様子で口を開いた。




明彦
「あー…もういい。今日は帰るよ…
午後は どーせ体育だし。」



八重
「もう、ホントに気落とさないでよ。
試験っていっても、
どーせ模試なんだし期末までまだ大分間隔あるでしょ?」



明彦
「まあ、そうだけどさあ…」




八重
「そうだなあ…アタシも今日は午後の予定も無いし、
そろそろ帰るか。」




明彦
「教師が仕事サボっていいのかよ?」





八重
「だから、保険担当だっつってんでしょ!
朝っぱらからデッかい病人看護したんだから
今日の仕事はもう終了よ」




明彦
「っくう…」






「なんて理屈だ」

明彦はそう思いながらも今朝の恩義を思い返し、
何の文句も言えずに立ち尽くしていた。




八重
「っという訳でぇ♪帰り支度♪帰り支度♪
と…」





一仕事終えた充実感を表情一杯に浮かべる八重を見て明彦は思った





明彦
(教師向いてないんじゃねーか…)




八重
「それじゃ担任の先生には私から早退の連絡しとくわね、
えっと…何先生だっけ?」



明彦
「石田先生」



八重
「やー!あの親父苦手なのよねぇ…」



明彦
「なんか女子に特に嫌われてるね。」




八重
「セクハラっぽいのょぉ…生徒にもしてるらしいんだけど。
目付きからして最悪」





明彦
「悪いけど お願いヤエ姉」




八重
「まあ、連絡ぐらいならいっか。
どーせ職員室で顔合わせんだし」




明彦
「そんじゃ、僕帰るね。」




八重
「公園の方通って帰るんじゃないよ。
今頃はもう立ち入り禁止区域になってると思うけど…」




明彦
「わかってるよ、そんじゃ」





明彦はそう言うと、
八重に礼をしてから保健室の戸を閉め
下駄箱の方へ向かっていった。

八重は戸が閉まったのを確認すると
机の上を軽く整理してから保健室の電気を落とし
戸に鍵をかけ職員室の方へと向かった。





八重
>(…帰り道に洋服でも買っていこうかな)





職員室の前に着いた八重は戸を開けると
目の前に明彦のクラスの担任
「石田康」を確認した。




八重
(うわぁ…ヤダなあ…)



ヘビの様な目付きに、今にも舌なめずりそうな口元。
薄くハゲかかった七三分けの髪型は
中年男性のイヤらしさを思いっきり象徴しているかにも見える。

八重は生理的本能で石田の風貌を怪訝し眉をシカめながらも
「明彦の早退を報告しなければ」と一教師の責任感をふりしぼり
石田の目の前へと歩み寄った。





八重
「あっ…あのぉ、石田先生」




石田
「ああっ、どおもぅ。竹下先生♪
中島の奴が怪我したってんで保健室居るそうなんですが
具合どうですか?」



八重
「ええっ…特に容態酷いって訳じゃないんですけれど、
今日一日は安静にした方が良さそうなので、
私の方から彼に帰宅命令を出しておきました」



石田
「そうですかぁ…出来の良い生徒だけに今日の欠席は辛いですなぁ…
やはり優秀な生徒には他生徒の見本になってもらわんと!」



八重
(そう思うなら保健室に顔出せっつーの…)



石田
「あいっ分かりました!いや、どうも。
そうだっ!どうです、竹下先生昼飯一緒に、エッヘッヘッ♪」



八重
「い、いえ…遠慮しておきます。」



石田
「そりゃ残念ですなぁ。それじゃまたの機会に。」



八重
「アハハ…
(ふぅ)





明彦の早退報告を済ませた八重は、
やや疲れた面持ちで次は自分の用件を済ましにと
教頭室の方へ足を向けた。





八重
(さて…と)





教頭室の前に着いた八重は扉の前で一つ深呼吸をすると、
次に大きな声で挨拶をし扉を開けた。





八重
「失礼します!」






扉を開けた目の前には、
太いフレームの眼鏡が印象的な
長身の教頭が立っていた。




教頭
「あ、竹下先生。丁度良かった。」





八重は自分の用件を報告しにきたものを
先に教頭から切り出されてしまい、
面食らった表情で声を上げた。





八重
「はっ?」



教頭
「今ね。待合室の方に、
竹下先生に用事があるっていう婦人がいらしてるんですよ。」





八重
(誰だろう…生徒のお母さんかな?)





教頭
「待って頂いてるので、
待合室に向かって下さい。



八重
「あの、その方の名前は?」



教頭
「大分お急ぎの様子だったので聞くのを忘れていました…
すみません。」





八重
「い、いえ。」





教頭
「でも、とても美麗な女性でしたよ。」





教頭は柔和な微笑みでそう言い、
八重はその返事に相槌を返すと早速待合室の方へと向かった。







八重
「本当に誰だろうな…思い当たり無いや」






待合室の前に着き、八重は戸を開けると
そこには八重にとって
思わぬ来客が皮の椅子にドッカリと腰をかけていた。





八重
「大嶺さん!?」





マリー
「よっ、元気かい?」

Last Update : 2004/02/04