トリックピエロ

 

money money



















「…うぇ…」





<ボト…シャゴロゴロ…>






その眼つきは生前の苦痛を物語るかの如く
こちらをジッし見つめてくる。

潰れかけ、濁った眼球の視線を前に
透は頬張った飴を思わず地面にコボれ落とした。






マリー
「勿体無いねアンタ」




「こりゃまた…」






マリーは透の反応を鼻笑いで小バカにすると、
須藤に視線を渡し調査を続行した。






マリー
「ちょいと、拝見させてもらっていいかい」



須藤
「構わん」



マリー
「どうも。」






そう言うとマリーはジャケットの内ポケットから
ゴム手袋を取り出し「右〜左」と装着する。






「パチン、パチン」





ゴムの弾力を手首に打ち付け装着の加減を確認すると、
マリーは溜息を一つ後、須藤の前へ手の平をよこした。






須藤
「ほら」




「気をつけろよ」






透は口を押さえながら篭った声で
マリーに注意を向けた。






マリー
「…」






マリーは眼球を受け取ると
ゴルフボール程度の大きさのその物の硬さを確認する様
持ち手の人差し指と親指で中心軸の指圧を繰り返し、
もう片方の親指の腹で側面をなぞっていた。

時にして30秒程、マリーは2、3頷くと
アゴを擦り須藤に眼球を返した






須藤
「何か…」






その問答を遮る様マリーは口を開く






マリー
「加害者は恐らく複数人、
凶器は鋭利なナイフ・刀剣類、
いずれにしろ分類的に短刀式の物の可能性高し。」




須藤
「聞かせろ。」



マリー
「眼球の硬さね。」






マリーは軽く言い払うと、
須藤の手の平にある眼球を指差し
気の抜けた調子で話を続けた






マリー
「眼ってのは涙の主成分が、
網膜って呼ばれる表面積潤って角質化防ぐ作りになってんの

犯行時刻からして凡そ5日以上経過としても、
眼球自体殆ど損傷も無く綺麗なもんだよ」



須藤
「部分的にか」



マリー
「そういう事」






その応答に透が思わず反応をする







「?」



マリー
「体内から分離された眼球は、
構造上水分補給による硬化状態保てなくなるからね、
萎んだカラーボールみたいになるもんなんだけど」



須藤
「一つ報告し忘れてた」



マリー
「なんだい?」



須藤
「これだ」






そういうと須藤はシートの裾から
赤い液の付着した袋を取り出した。

それは小さなチャック式のビニール袋。






マリー
「ふーん…。」



須藤
「発見当時、すでに眼球はこの袋に入ってた」



マリー
「(失笑)」




「あれー出していいんですか?」



須藤
「署の鑑識には一通り回してある。」




「そ、そうですか…」



マリー
「また不自然だね。アンタ(笑)」



須藤
「だろう。」






須藤がそういうと、マリーは軽く会釈してから先ほどの
眼を手に取りその眼を指しながら説明しだした。






マリー
「第一目ん玉そう簡単にクリ抜けないよ。

仮にゴリラみたいな握力の奴が丁寧に引っこ抜いたとしても、
指で引き千切った場合、
周りの肉塊がイソギンチャクみたいにセット付でくるだろうしね」




「うへぇ…」






ジェスチャー付で眼球の構造を淡々と語るマリーに透が背を向けた。






須藤
「…」



マリー
「オマケにこの眼、
視神経一本残さず綺麗ーに切除してある。

切断面見ても手術次第で再縫合可能って出来だ。」



須藤
「成る程」












「プルルルル…」












その時須藤の胸ポケットから
携帯の鳴る音がした。

須藤はピクりと眉を動かし
ポケットから紫色の携帯電話を取り出した。






須藤
「スマン。報告を頼んどいた署の奴からの連絡だ」



マリー
「あいよ」






須藤はマリーに一つ礼を払うと視線を携帯に向け耳の方に持っていった






須藤
「須藤だ。結果取れたか?」




検視課
「おぉ、須藤さん。新田です。
貰った指と、皮膚な、調べてみたよ。」




須藤
「そうか。さっさと頼む」




新田
「愛想ないねぇ…
こっちゃあ有給返上して鑑識してるってのに(苦笑)」




須藤
「こっちも朝から晩まで眼ん球とニラメっこで現場周りだ。
愚痴はいいから結果聞かせろ。」




新田
「ああ、伊勢って子だよなっ?間違いない。
「血液鑑定・DNA配列」調査後、
骨格や肉片の解析結果ハイテク課の奴に渡してな、
コンピューターで死ぬ前の形にモンタージュさせたんだ、
人相から輪郭まで割り出してもらってよ。」




須藤
「…」




新田
「ガイシャのオフクロさんから預かってる写真と一致したぜ。
ホクロの位置からシワの間隔まで完全一致だ。




須藤
「確定…か。」




新田
「それとな」




須藤
「なんだ?」




新田
「あの、犯行現場にあったっていう袋入りの眼ん球あったろ
あれな、中に入ってた布の切れ端、鑑識かけてみたんだよ。




須藤
「結果は」




新田
「布に付着してる原液「ホルマリン」だなこれは。
少し薄い気もするけど、
薬剤として一番近似の選ぶとしたら間違いない。」




須藤
「防腐剤…」




新田
「直接関係あるかは分からんけど、
とりあえず報告しといたぜ。」




須藤
「礼を言う。急かして悪かったな」




新田
「土産話で奢ってくれよ。
んじゃなっ」







「ガチャッ」
















連絡を受け終えた須藤は視線を落とすと、
腕時計をジッと睨みながら
二人に話かけるタイミングを伺っていた。

静観な事件現場に佇む3人の腕時計の秒針がその間に鳴り響き、
互いの空気を読みあうかの如く絡み合う。



そして、最後の秒針が鳴り響いたその時





















マリー
「入りが深い取引ね。また」








須藤
「税金払ってもらわんとな」









土臭い熱気が充満する午後初めの公園。
彼等の場所から捜査は開始された。

そして…


























「僕等公務員ですからねー^^;」


























新人の彼は我が身を案じていた。

Last Update : 2003/11/28