「キーンコン…」
時を焦らす様にチャイムが鳴っている。
もう、朝礼の時間だ。
明彦は相変わらず下を見つめながら、
今度はボヤけた地面をボーっと虚ろに見つめ歩いている。
地面に叩きつけられた膝の痛みが彼の頭を駆け巡り、
フラフラと徘徊する様に足を動かす。
明彦「(ホームルームに間に合えばいいや)」
自虐的な悟りが明彦の心を頷かせ、
彼は時間をズラす為、通りがかった公園に入り、
奥のベンチに座ると一つ深い溜息をついた。
明彦「ふぅ…」
そのベンチの上には木で出来た屋根があり、
熱降り注ぐ今の時期は日傘代わりにもなっている。
明彦が座って間もなく、
彼の目の前を背筋のシャンとした老人が横切り
間一人分空け、静かに横に腰を下ろした。
明彦「(ゴツい爺さんだな…)」
明彦が横目で覗いた老人の目は尖る様に鋭く、
口元はキリっと一文字を結んでいる。
豊かな白髪をオールバックにし、
黒のジャケット内に着用した白シャツの胸元から覗かせる胸筋は
年輪を感じさせる皮膚ジワに似合わず実に逞しいもので、
首筋に浮き出た太い血管がそれを更に際立たせていた。
明彦「(目合わせないでおこ…)」
不毛な決意が彼の憂鬱な日常に罰を与えた様だ。