空気うねる夏盛り猛暑、
視界ウネる熱気に焼け縮れたミミズの死骸がアスファルトに散乱し、
下を向く彼の目はそれを捉え
脅える様な足取りで地元の公立中学に足を進めていた。
彼の名は 中島明彦。
枝の如く細い両腕に、
足腰の弱さが目に見える膝の曲がった曲立歩行。
淡い緑の服を着用した彼の姿は一見枯れ木の様でもあり、
顔に乗っかる大きなダンゴっ鼻は持病の鼻炎によりいつも真っ赤に腫れ上がっている。
彼が下を向き歩くのはその為である。
ボヤけたアスファルトの視界に入った大きいミミズの死骸を避けた次の瞬間、
明彦の背中に鋭い衝撃と同時に鈍い痛みが走った
<ドガッ!>
・明彦「アグ…!」
突如鋭い衝撃に全身のバランスを奪われた彼は
膝から崩れ落ち、間もなく漏れる様な悲鳴を上げた
・明彦「あ…痛タタタァ…」
か細い声でそう呟く彼の後ろに三人の同級生が立ち、
中の巨漢少年の側近に立つ二人はエヘラエヘラと姑息な笑みを顔に滲ませていた。
中央に位置する赤染めの角刈り頭の彼は
細い目を絞込んだヘビの様な目つきでこう言い放った。
・赤髪の少年
「足折って遅刻すんなよバカピエロ」
・明彦「あ…うん…エヘヘ」
明彦はこの三人とは馴染みの仲で毎朝登校時後ろから蹴られるのは
同校内における力関係の証明と共に彼の鬱憤を晴らす為の甲斐性でもある。
小学四年生の頃にこの土地に転校してきた時以来、
彼等の暴力に屈した明彦はこの行動原則を日課としている。
真っ赤な鼻に滑稽な媚び笑い。
「バカピエロ」
いつしか明彦は彼等からこう呼ばれていた。
一呼吸の間をおいた後、
右の金髪少年が巨漢の赤髪を見上げる様に切り出した
・金髪の少年「中尾さーん!今日の足技切れてますねぇ!」
次に左に居るスキンヘッドの少年が口元に開けたピアスに気遣う様口を開く
・スキンヘッドの少年
「おめぇそろそろ保険入った方がいいんじゃねえの?(笑)」
・明彦
「あ…ごめんなさい」
・金髪の少年
「そしたら保険金頂戴ね♪能無しピエロちゃん(笑)」
金髪の少年がそう言うと、明彦は崩れた膝で這う様に三人に道を開け
下を向いて彼等が過ぎ去るのを待ってからいよいよ登校準備にかかる。
・明彦
「へへ…また遅刻だ」
自らを嘲る様な笑顔を浮かべた明彦は、制服についた埃をニ・三度軽く手で払うと
彼等の姿が見えなくなったのを確認してからズビズビと鼻をススり登校の路に戻った。
彼の日常はこうして始まる。